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2日目・淵ー7

「良いだろ!水晶綺麗だし!石柱の形が良いんだよ!」 「水晶見つけたことあるの?」  美智が目をキラキラさせて訊いてくる。そのわざとらしさが、正直設楽は苦手なのだ。 「あるよ、水晶。……1番良いのはあげちゃったけどね」  設楽は少しだけほろ苦い顔で答えた。  山中に水晶をあげた思い出は、まだ胸に生々しい。それでも、それはもう良い思い出だ。  それにその思い出は、大竹と2人で川岸でキャンプをし、2人で光る石英を見た、美しい思い出でもあるのだ。 「え?あげちゃったの?」 「そ。……好きな人にね」  笑ってそう言うと、美智は目を見開いた。遠山がひゅうと口笛を吹く。大竹は何も言わずに、Tシャツに袖を通した。 「す……好きな人って……智くん、付き合ってる人いるの?」 「別に美智には関係ないだろ?」 「そんな言い方しなくても良いじゃない!」  まるで痴話げんかのように言い争う2人に、大竹は小さく苦笑すると、子供達の点呼を始めた。 「よし、全員いるな」 「何だよ、先生が一番道草喰ってたくせに」 「おう、悪かったな。水辺は結晶の宝庫なもんだからさ。おい設楽、もう暗くなるから、子供達と先に帰ってるぞ」 「えぇ!?待ってよ先生!」  大竹は後ろも振り向かずに子供達と一緒に帰り道を戻って行く。先頭を遠山に歩かせ、子供達の最後尾をのんびり歩いていった。  子供達は、飛び込みの一件で大竹を気に入ったらしく、ずっと大竹にまとわりついていた。帰り道の間中、石英の話や水晶の話をせがみ、飛び込みのコツを聞いている。 「先生、飛び込み、明日も教えてよ!」 「明日は他のことしてぇなぁ」 「水晶探すの?」 「俺も一緒に行く!」  大竹の皮肉面も気にならないのか、子供達は大竹の気を引きたくて夢中らしい。いきなり現れて綺麗な飛び込みを見せた大竹が、スーパーマンにでも見えているのだろう。  チクショウ。俺の先生なのに。  大竹が子供達に好かれているのが誇らしいような、それでも好かれすぎてむかつくような、設楽の気持ちは複雑だった。 「何で俺が明日もお前らの面倒見なきゃなんねーんだよ」 「逆だから!俺達が先生の面倒見てやっから!」 「勘弁しろよ」  大竹の大きな手が子供達の頭をぐわっと掴んで左右に揺すると、子供達は「やめろよー!」と叫ぶが、その声は嬉しそうだ。まだ小さい子供達が大竹に肩車をねだると、大竹は「それは別料金だ」と笑った。  大竹らしくない笑顔の大盤振る舞いが誰の為なのか。設楽はそんな大竹の背中を、少し切なく見つめていた。

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