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2日目の朝ー2

 朝食を食べ終えた頃、「おはよーさんですー」という、既に聞き慣れた声に庭を見ると、そこに居たのは遠山1人だった。 「おはよう」 「あれ?美智は?」  思わず設楽が訊くと、遠山は苦笑して肩を竦めた。 「今日は1人で勉強する日だってさ」 「ふ~ん…」  設楽は少し複雑そうな顔をした。別に残念だと思ったわけではないのだろう。多分、あんなにべったりしていた美智の掌を返したような態度に、途惑っているのだ。 「お前に彼女がいるって訊いて、ちょっとショックだったみたいでさ。や、さすがに彼女がいたって好きは好き、とはいかないか」 「……別に、彼女がいるって訳じゃ……」  思わずぽつりと漏らした設楽の台詞に、遠山はガバリと食いついた。 「え!?彼女じゃねーの!?」 「あ、やばっ!」  余計なことを言った、と思ったときには遅かった。 「そっかー!何だ、自分で採った水晶プレゼントするくらいだから、てっきり彼女かと思った!」 「ちょ、待ってよ!彼女はいないけど、好きな人はいるって事だよ!」  設楽が慌てて遠山に言い直すが、もう遠山は聞いていないようだった。さっそく美智に教えてやんなきゃ、だったら美智にも可能性あるよなと目の色が変わっている遠山に、設楽はうんざりした。 「なぁ優兄、考えてもみろよ!盆暮れにしか会わない従妹と東京でいつも会ってる好きな人だったら、どっちの方が大事だと思う?今更美智のことそんな風に見れるかよ!俺おむつの頃から美智知ってるんだよ!?」 「好きでいるくらい良いじゃねーかよ!」 「でもそれを俺に押しつけんなよ!」 「良いじゃねぇか。こんな田舎で暮らしてりゃ、お前は東京ってお城に住んでる王子様みたいなもんだ。シンデレラが舞踏会を夢見たって、バチは当たんねーだろ!」  ダメだ。遠山は自分と自分の妹のことしか考えていない。1人で納得したように頷くと、「そうだ、今日はうちで一緒に勉強しない?」とあり得ないようなことを言い出した。 「俺勉強しにここに来たわけじゃねーし。行こ、先生!」  遠山を無視して設楽は大竹の腕を引っ張った。だが、当然のようにそれは遠山が引き留める。 「先生と出かけてたら同じ事だろ。ここで位羽目外せよ!」 「は?羽目外せ?好きな奴がいるって言ってるのに、美智と一緒にいろって言う口がそれを言うのか?」 「別に美智と付き合えとか、美智を嫁さんにしろとか言ってる訳じゃねーだろ。ここにいる間くらい、年も近いんだから、少しくらい一緒にいても」 「うるせーんだよ!!」  設楽は怒りで顔を赤黒くしながら、遠山を睨みつけた。いつも明るい顔で笑っている設楽のこんな顔を見るのは遠山は初めてで、一瞬体が動かなくなった。 「そういう事言うなら、俺はもう2度とこには来ない!先生、もう東京に帰ろう!!」 「お、おい智一!」 「俺は何も考えずにゆっくりするつもりでここに来たのに、何で美智のご機嫌取りが俺の役目みたいになってんの!?なに!?美智ってそんなに偉いの!?みんなが美智の言いなりにならないといけないの!?冗談じゃねぇよ!」 「俺は何もそんな……」 「それと!大竹先生をそうやって邪魔者扱いするのも許せねーんだよ!先生がわざわざ俺に付き合って、せっかくの休み使って来てくれてんのに!大竹先生に謝れよ!!」  怒りのために泣き出しそうな設楽の剣幕に、遠山は焦ったようにおろおろし始めた。それでもなお設楽を引き留めようとする遠山の腕を、設楽は叩き落とした。
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