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3日目・朝ー4

 自分でも意外なほど、大竹の声は淡々としていた。自分が思い悩んだ深さに対して、その声は淡々としすぎていると、大竹自身が不思議に思うほどだった。  まだ腹が決まったわけではない。自分はこの事について、多分いつまででも悩む。設楽が高校を卒業する時。社会人になる時。設楽の周りの連中が結婚をし始めれば、もっと悩みは深まるだろう。  設楽は男で、自分の生徒で、一回りも年下だ。こんな事が続くとも思えない。気持ちはいつまでも同じ形はしていない。高校という閉ざされた空間ではなく、もっと大きな世界に出た時に、きっと設楽の気持ちは変わってしまうだろう。  それでも。  それでも、今この気持ちは本物で、この刹那ばかりの間でも構わない。  どれだけ考えても大竹にはこの答えしか出てこないのだ。 「それでもやっぱり、俺がお前を好きで、お前が今好きなのは俺だって、俺が自分で知ってるから、俺はそれで構わない」  それは揺るぎない声だった。  あまりにも大竹らしい声だった。  人に何と思われようが、学校中に嫌われようが、自分の信念を曲げない大竹がここにいる。  設楽は瞬きも忘れて大竹をじっと見た。それからゆっくりと、大竹の背中に手を回した。 「先生は、俺の道しるべだね」  小さく耳を打つその言葉に、大竹は設楽を抱きしめることで応えた。  強く強く、互いの隙間がなくなるほどぴったりと抱きしめ合う。  昨夜の興奮よりも、体が震えた。心の結び合う快感というのがこんなにも深い物だとは知らなかった。  このまま1つに解け合ってしまいたかった。それほどまでに、その抱擁は深く、痺れるほど、震えるほどの陶酔に、2人はいつまでも身を浸していた。  それからどれだけこうしていたのか。その心地良さは次第に即物的な物へと形を変え始めて、2人は段々居心地が悪くなってきた。 「……えと、先生、この流れでやっちゃうとかいうことは……」 「……いや、それはないだろ……」 「ですよね~?」  2人はどうやってこの1つに絡まった手足を解けばいいのかとしばらくの間逡巡し、それからとうとう諦めたように手を離した。 「こないだ先生んちでさ、俺の握ってくれようとしたこと覚えてる?」 「もう忘れた」  わざとらしくそっぽを向いた大竹は、耳まで真っ赤に染まっている。設楽は口の中で「あーもーチクショ~ウ。先生可愛いすぎんだよ~」と意味不明なことを吐いて、「じゃ、行こうか」と立ち上がった。 「おい、まだ帰るとか言うつもりか?」 「いや、先生、鉱石採集セット、持ってきてる?」 「車に積んである」 「じゃさ、川沿いに何かないか、探しに行こうよ」  あぁ、と大竹はほっとしたように息をひとつつくと、「でもこの辺あんまり出なさそうだったぞ」と立ち上がった。 「苦土電気石って言ったっけ。あとフローレンス石?その辺は探したら出そう?」 「あれはちょっと産地がずれてるし、もっと稀少価値だ。まぁ良い、取り敢えず黒雲母くらいなら出るかもしれん。行くか」  荷物を纏めていると、おばあちゃんが「出かけるならおにぎり作ろうか?」と声を掛けてくれた。

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