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5日目・朝ー1
唇に、何かが触れた。それは柔らかくて暖かく、心地良い物だった。その何かは暫く唇の上を彷徨っていたが、そのうち首筋を辿って、耳の付け根に移動した。
「ん……」
くすぐったいような、焦れったいような感触に、大竹は小さく声を漏らした。その感触が 段々強くなり、じれったさはもっと強い感覚に―――ぶっちゃけて言えば下腹を疼かせるような直接的な感覚になり、大竹はやっと意識を覚醒させた。
「ちょ、設楽!何してる!!」
そこには案の定大竹の体をまさぐる設楽がいる。
「いや、このまま先生の扱いて勃たせて俺ん中に挿れちゃおうかと……」
「ば……っ!!」
大竹は小さく叫ぶと足の裏を設楽の顔面にめり込ませた。
「本人の同意のない性行為をレイプって言うって知ってるか!?」
「だって先生が俺の布団で一緒に寝てるなんて、これは犯っちゃっても良いってことじゃないの!?高校生の性欲ナメんのも大概にしろよ!?」
体を起こすと、確かに隣の布団は使った形跡が見えない。
え?じゃあ俺、昨日あれからこいつの隣で寝ちゃったのか?
それだけで俺こいつに犯られそうになってるって事!?
「と……思ったんだけど、さすがに先生に断らずに勝手に挿れちゃったら絶交されそうな気がしたから、必死に我慢してたの。褒めてよ」
「お……おう、よく我慢したな……って、それもどうよ、設楽……。何これ。何のコントなんだこれは……」
撫でろと催促する設楽の頭を何となく撫でながら、大竹はちょっとゲンナリと起きあがった。
「先生、ちなみに、勝手に先生のを俺に挿れちゃうのと、勝手に俺のを先生に挿れちゃうんだったら、どっちが良い?」
真面目な顔で二択を迫る設楽の頭に、今度は拳骨をめり込ませる。
「ってー!体罰禁止でしょ!?」
「うるせぇ!不純同性交友も禁止だ!」
さっさと甚平を脱いで着替え始めた大竹に、設楽は盛大な溜息を吐きかけた。
「あーあ。喉から手が出るくらい大好きな先生と同じ部屋で寝起きして、お預け喰らっても我慢する、この俺の海より深い愛を、先生ちゃんと理解してくれてんの?」
軽い口調の割にどこか切羽詰まった色を滲ませたその台詞に、大竹は赤くなった顔を歪めて、小さく口の中で「それはこっちの台詞だ!」と吐き捨てた。
「え!?今先生なんて言った!?」
「何も言ってない!」
「言った!いっそもうお互い我慢するの止めちゃおうとかいう選択肢は!?」
「だから、俺は何も言ってない!」
後ろから覆い被さるように抱きついてくる設楽を振り払って、大竹は立ち上がった。
「飯!もう朝食の時間だろう!?」
「うわっ、先生!顔真っ赤!!」
「うるせぇ!」
「もー!素直になれよー!!」
「うるせぇっつってんだろ!!」
設楽を何とか振り切って居間に行くと、朝食を並べているおばあちゃんから声を掛けられた。
「おはようございます、先生。あのね、今朝方一本松の所の俊彦くんから先生にお電話があって、今日お時間いただけませんかって」
「……は?」
一本松の所の俊彦くん……?
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