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5日目・朝ー3

「先生?」  分からないのは設楽の方で、それが大竹と何の関係があるのかと、2人の顔を代わる代わる見つめている。 「へぇ、俺サテライトやってる奴初めてだ。どう?どんな感じ?」 「あ、講義はすごく面白いです。でも」 「ちょ!ちょっと待って!」  そのまま2人だけで話が進んでいきそうになったところを、設楽が強引に割って入る。自分の知らない話を目の前で楽しそうにされるなんて、そんなの我慢できるか! 「何?俊くん、先生と知り合いなの?」 「あ、ごめん」  俊彦は慌てたように鞄から1冊のテキストを取り出した。 「夏休み中なのにごめんな、智一。俺、このゼミを受講していて」  取り出したのは予備校のテキストで、奥付を開くと小さく「テキスト作成―宮嶋啓介・大竹慎也(学校法人藤光学園高等部)」とクレジットされている。 「あ!先生が毎週手伝ってるって言ってた、予備校のテキストってこれ?」 「ああ」  やっと設楽にも納得がいったようだ。パラパラと中を見せて貰うと、確かに大竹の部屋で目にしたことがあるような気がする。 「すげぇ!俊くん、俺、これ紙綴じたり資料の数字読み上げたりするの手伝わされたんだよ!」 「マジか!超すげぇ!」 「あ~、そういう企業秘密は内緒にしてくれ……」  3人して玄関先で盛り上がっていると、その盛り上がりをぶち壊す声が聞こえた。 「あれー?そんなとこで何してんの?」  この脳天気な声が誰の声なのかなど、振り返らなくても分かる。遠山と美智がまた性懲りもなく来たのだ。だが今日は俊彦がいるからと2人には軽く挨拶だけして、後はこれ幸いと、いっそ清々しいまでにガン無視だ。 「それでサテライト講座ってどう?」  東栄ゼミナールは超が付くほど有名な大手予備校だ。日本全国に校舎を構えているが、もちろん時勢に乗って、衛星放送を使った講義も取り入れている。東栄ゼミのサテライト講座は、サテライト用の講義を別撮りするのではなく、本校の講義を直接生放送で全国のサテライト校に配信し、その一部はネットでも配信されている。 「はい、その場で一緒に授業を受けてるような臨場感があって良いです。ただ……」 「ただ?」  本校の講義をそのまま流しているので、問題を解く時間も同じように与えられてとてもやりがいがあるし、受講生がその場で挙げる質問や、講師の補足も同じように聞くことが出来るので助かる。だが。 「こっちからは、直接講師の先生には質問できないじゃないですか。チューターの先生に質問しても、結局放送が終わってから質問しなきゃいけないから、なんかイマイチピントがずれている事もあって、それがどうしても……」  俊彦は困ったように眉を顰めた。 「でもサテライト生は質問をファックスやメールで直接本校に送れただろう?そういう質問は俺も一緒に目を通すぜ?おかげさんで次のテキスト作成に役立たせて貰ってる」  大竹がそう言うと、俊彦は何故かぱぁっと顔を輝かせた。 「はいっ!ありがとうございます!あー、俺いつもサテライトだから、何か緊張する……!」  俊彦の妙にキラキラした目が、大竹には痛い。ただの下働きの自分に対して、何故そんな目をするのか。これが大手予備校のネームバリューという物か。恐ろしい……。 「……いや、講師は宮嶋で、すごいのも偉いのも宮嶋だから。俺はテキストを手伝ってるだけだって……」 「え?何?大竹先生って、そんな有名な先生なの?」  急に目の色を変えて美智が大竹を見た。「有名」というのは美智にとっては偉大なキーワードらしい。

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