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5日目・再びおばあちゃんの家ー2

「設楽?」  居間の入り口で、オロオロしているおばあちゃんと、何とか2人を止めようとしている遠山はすぐ大竹に気がついたが、設楽と美智は周りの様子が目に入っていないようだった。 「だって智くん、大竹先生大竹先生って何なの!?何でそんなに先生の気を引こうとしてるの!?気持ち悪い!」 「何が気持ち悪いんだよ!」 「だってそうでしょ!?大竹先生男じゃない!何だかまるで智くん、大竹先生が好きみたい!!」  ギクリとして、一瞬大竹の足が止まった。だがそれを顔に出す大竹ではない。 「どうしたんですか、この騒ぎは?」 「先生、それが……」  おばあちゃんの話はこうだった。  大竹が俊彦と2人で出て行くなり、設楽は自分の部屋に戻ろうとした。それを美智が追って行こうとして、ついてくるなとケンカになったのが発端だという。途中で設楽が「お前のせいで大竹先生の授業が聞けなかった」と言った言葉が美智の気に障ったらしい。そこから「何で大竹先生ばっかり気にしてるの!?気持ち悪い!」という発言に繋がり、今に至っているのだそうだ。 「大体さぁ……大体お前、何なわけ!?俺が迷惑だって言ってんの分かんないの!?マジウザいんだよ、お前!」 「何で!?何でそんなに大竹先生が良いの!?おかしいよ、智くん!女の子と一緒にいるより先生と一緒にいたいなんて!それとも何?本当に智くん大竹先生が好きだとでも言うの!?」 「おい美智やめろ!」  さすがにこれ以上はのっぴきならないことになると、遠山が美智を止めようとするが、興奮した美智は遠山の腕を振り払った。 「お兄ちゃんは黙っててよ!」  美智が遠山に怒鳴りつけると、設楽はその様子を、バカにしたように嗤った。 「何なわけ?お前どんだけ女王様なの?自分に気がない男は全員ホモ扱いかよ!お前が普段どんないけ好かない女かよく分かる発言だな!」 「何ですって!?」 「やめろ設楽!」  このままだとどんどんエスカレートして、設楽が何を言い出すか分からない。2人の間に大竹が入って物理的に2人を引き離そうとしたが、設楽は大竹の肩を掴んで後ろに押しやった。 「世の中の男が全員自分に惚れてると思ってるなんて、おめでたい女だな!お前の周りにいる男がどんな奴らか知らないけど、少なくとも俺はお前なんか好みでも何でもないって言ってんだろ!セーラー服着てりゃ偉いとでも思ってんのかよ!」 「やめろって!」 「先生は黙ってろよ!俺こいつのせいでずっと不愉快な思いさせられてきたんだから!」 「設楽、いい加減にしろ!」  後ろから羽交い締めにして奥に連れて行こうとしたが、設楽は全身で大竹の腕を振り払った。 「美智、俺はね、女子高生とか全く興味ないんだよ。だって俺さ、東京で旦那のいる人のストーカーしてたんだから」 「え?」  その場の空気が凍り付いた。何を言っているのかと、美智の目がみるみる曇っていく。 「設楽、やめろ!少し落ち着け!」  だが興奮状態がマックスになっているらしい設楽には、大竹の声は届かない。 「ストーカー?何言ってるの智くん……。旦那のいる人……?」 「そうだよ。30近い大人の人だよ。俺はずっとその人をつけ回してたんだ。ほら、これで分かっただろ?俺は女子高生なんてお子様には全く興味ねぇんだよ!」 「……ストーカー……?」  今度呆然とした声を挙げたのは、美智ではなく遠山だった。

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