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5日目の夜ー1
その日の夜、部屋に戻ると設楽は小さくなっていた。設楽は、これから大竹の説教が始まると信じている。小さくなるのは当たり前だ。
だが、大竹の口から出たのは設楽の思ってもいなかった言葉だった。
「ごめんな。俺のせいだ」
「え…?」
どうして先生が、そんな事……。
「俺があの時、お前を置いて俊彦くんの家になんか行かなければ、こんな事にはならなかった。お前と2人でここに来たんだ、お前の事を優先するべきだったのに、俺は仕事の事となると見境がなくなるらしい。お前に厭な思いをさせた。すまない」
その台詞に、設楽が信じられないという目で大竹を見た。
何を言ってるのだ。先生は、何を言ってるのだ。
「俺がいけないのに、先生が謝らないでよ!俺だって分かってるよ!先生が受験生放っておける訳ないじゃん!そんな事で癇癪起こすほど俺子供じゃねぇよ!俺、ちゃんと待ってようと思った。でも美智が……!」
興奮しかけた設楽を、大竹がそっと抱き寄せた。その腕の感触に、設楽はぎゅっと目を閉じた。
「さすがにゲイばれはまずいと思って、それであんな事……。言ってるうちに段々訳分からなくなっちゃって、それで……」
「もう良い」
「俺が、俺が考え無しで、先生が帰ってきてちゃんと止めてくれたのに、止まらなくなっちゃって、それで俺が……」
「もう良いから」
大竹の腕に力がこもる。
「お前は今日まで必死に我慢してたよ。並の努力じゃなかった。お前をあの子と2人にするべきじゃなかったし、俺がお前の傍にいれば良かったんだ。あの子は確かにお前を追いつめたけど、そのきっかけを作ったのは俺だ」
「違うよ!」
「うるせぇ、俺のせいだって自惚れさせてくれ」
「先生…」
その言いぐさがおかしかったのか、設楽はやっと笑顔を見せた。
「先生がそんな事言うなんて、思わなかった。俺が先生のせいで我慢できなくなった方が、先生は嬉しい?」
「……すまん。なんか、ちょっと嬉しい……。まずいな、こんなの……」
「先生……」
大竹が耳まで赤くしながら、困ったようにも、悔しそうにも、恥ずかしそうにも見える顔をする。その顔に、ジワジワと指先まで嬉しさが充ちていった。
暫くそうして抱き合っていた。それから、設楽はゆっくりと、「先生、キスして良い?」と小さく訊いてみた。
大竹は答える替わりに、設楽に口づけた。
大竹が良いと言ってくれれば、それで全て良いような気がした。
先生にさえ許されているのなら、俺は他の誰に許されなくても良いのだ……。
そんな設楽の気持ちを分かっているのだろうか、大竹は慰めるためのキスというよりは、官能的なキスを寄こしてきた。
舌と舌を絡め、お互いの吐く息を1つにして、互いの舌が蕩けてなくなりそうなキス。それだけで、設楽の理性は一瞬で飛ぶ。我ながら簡単だとは思うが、大竹の手にかかると、それだけで何も考えられなくなってしまうのだ。
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