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6日目の朝ー1
翌朝、いつもより早めに朝食を終えて、大竹と設楽は伯父さんの案内で釣りに出かけた。
昨日のことがあったせいか、設楽はいつも以上に大竹の傍にくっついていたが、伯父さんと話をするには、設楽は傍にいない方が良いだろう。それなら、と、大竹は設楽に勝負を持ち掛けた。
「おい、どっちが釣れるか肉賭けるぞ」
「肉!?」
「勝った方が、今日のバーベキューで良い肉を食えるんだ。ほら、俺はこっちで釣るから、お前はポイント変えろ」
「よぉし!吠え面かくなよ!」
気持ちを切り替えるためか、設楽は勇んで大竹から少し離れ、張り切って釣り始めた。
暫くの間、大竹と伯父さんは当たり障りのない話をしながら釣り糸を垂れていた。
川面はキラキラと新緑を映して輝いている。設楽は魚を釣り上げるたびに、「岩魚 獲ったど~!」等とテレビの真似をして、見せつけるように魚を持ち上げている。
「ったく、智一はいくつになってもガキみたいだな」
伯父がしょうがない奴だと喉の奥で笑うと、大竹も「そこがあいつの良い所ですよ」と笑った。
「裏表がなくて、屈託もなくて……。今時珍しいですよ。自分の気持ちに真っ直ぐで」
その慈しむような顔に、伯父さんは小さく瞬きをした。
「……先生は、どうして智一と一緒にここに来たんですか?」
昨日、設楽には面白おかしくあんな言い方をしたが、もちろん伯父さんの中には設楽の言動を心配する気持ちが強いのだ。学校の教師と2人でこんな田舎に来るなんて。ストーカーと言っていたが、智一は何かとんでもない問題でも起こしたのだろうか。
伯父さんの顔に不安の色を見つけて、大竹は小さく笑った。
「俺、この性格なんで、学校じゃそりゃもう盛大に嫌われてるんですよね」
「先生?」
大竹の言葉の意味が分からず、伯父さんは訝しげな顔をした。智一のことを訊いたつもりだったのに、何故大竹の話になっているのか。
大竹は小さく苦笑してから、言葉を続けた。
「そんな俺のことを慕ってくれたのは、設楽だけだったんです」
「あぁ……」
大竹の竿にアタリが来て、大竹は2、3度竿をしならせてから、力みのないフォームで山女魚 を釣り上げた。
「あの頃、設楽が何か問題を抱えていたのは分かっていました。でも設楽のように真っ直ぐな性格なら、それがあまり変な方向に行くこともないだろうと思って、逃げ場所だけ用意して、後は見守るだけにしようと思っていたんです」
「問題というと……ストーカーという奴ですか?」
伯父さんは眉を顰めて大竹を見た。
「はは、最近は片思いの相手を思い続けるだけでもストーカー扱いで……。俺達がガキの頃は、好きな人の周りを用事にかこつけてウロウロするくらいは誰でもやったモンですけどね」
だからそれはたいした問題じゃないと思うんですよ、と、大竹は嘯 いた。
まぁ、実際には山中と高柳が校内で乳繰り合ってるのを指咥えて眺めてるために学校の鍵持ち出して合い鍵作って校内に偲びこんでたんだから、そう考えると結構なストーカーっぷりだが、そいつは「守秘義務」ということで内緒にさせていただこう。さすがにそれ言ったらもうシャレじゃ済まないしな。
「そのうち設楽の様子がちょっとのっぴきならなくなってきて、そろそろ何か介入した方が良いかと思っていた頃に、設楽の方からキャンプに誘ってきたんですよ。じゃあせっかくの機会だから洗いざらい吐かせてやろうかと思って、俺、設楽を酔い潰してみたんですよね」
その大竹の告白に、伯父さんはギョッとして大竹を見た。
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