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6日目の午後ー2
「そんなに厭なら、最初に言ってよ!」
「気持ち良かったくせに」
「気持ち良いから始末に悪いんじゃねーかよ!こいつどーすんだよ!責任取れよ、バカ!!」
設楽が自分のズボンの前を指さすと、大竹はちらっとそこを見て「若いな」と笑った。
「もー!煽るだけ煽って何もしてくれないんだから!!卒業したら覚えてろよ!!」
「怖い怖い」
大竹は愉快そうに笑いながら、気持ち良く車を走らせている。
設楽はその横顔を暫く黙って眺めていた。
────洗いざらい吐かせてやろうと思って、設楽を酔い潰してみたんですよね────
先生はあの時点で、俺が山中先生のストーカーだって事は知ってたし、高柳とのことも薄々気づいていた。それで俺に全て喋らせようと思って酒を飲ませたのなら……多分、俺は本当に何もかも、先生に誘われるままに話してしまったのだろう……。
今までも、どこまで大竹に話してしまったのか怖かったけれど……。でも、もし俺が全て話してしまったとしたら、何故先生は俺と付き合う気になどなったのだろう……。自分で思い返しても、あんなのは異常だ……。
口の中がすーっと冷たい。
ふと、ハッカのキャンディが苦くなった気がした。
「……先生……」
「ん?」
前方に顔を向けたまま、大竹が視線だけ設楽に寄こしてきた。
「先生、どうして俺としないの?」
「だから、お前が俺の生徒だからだろ?」
「本当に、それだけ?」
「ん?」
今更何を言っているのだと、大竹が設楽にチラリと視線をやる。
顔色が白い。いきなりどうしたというのだ。
「先生、俺とエッチしたくないんじゃないの……?だって俺、高柳と」
「設楽」
言いかけた設楽を、大竹が止めた。
声が、いつもより低い。
設楽はびくりと体を震わせて、大竹を恐々と見つめた。
「お前とのことをいい加減に思っていたら、俺はさっさとお前に手を出してる。一生一緒にいたいと思っている俺の言葉を疑うのか」
「だって!」
思わず声が涙声になった。
こんな時に泣くなんて最低だと思いながら、それでも設楽は自分の声が震えるのを止めることが出来なかった。
「だってもし俺が先生なら、こんなの許せないよ!俺のしたこと気持ち悪いって思うに決まってる!」
「俺はそんな風には思わねぇよ」
「でも!」
「思わねぇよっ!」
ガンッとブレーキを踏み込むと、女性の悲鳴のような音がして、車はガクンと急停止した。
深い山道の中。他に車が来る気配はないが、それでも設楽の体は一瞬硬くなった。
大竹は車のサイドブレーキを引くと、引きちぎるようにシートベルトを外して、設楽に体ごと向き直る。その顔が、射抜くように設楽を正面から捉えていた。
「その位でお前を疎ましく思うくらいなら、最初からお前を好きになったりしねぇよ!男で一回りも年下のテメェの生徒に手ぇ出してんだぞ!半端な覚悟の訳ねぇだろうが!」
大竹の瞳はどこまでも真摯で、嘘がない。
でも。
「だって、俺がイヤなんだよ!」
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