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6日目の夜ー5
「きつい事言うようだけど、お前は逃げてんだよ。妹に自分のしたことを知られたくない。妹を甘やかして、良いお兄ちゃんだと好かれていたい。親にこれ以上妹のことで責められたくない。だからあんたは何が本当に妹の為なのかを考えることを放棄したんだ」
俺は全く赤の他人だから、そんな事情には全く頓着 しねぇぞと、大竹はきっぱりと言い切った。
「……大竹って、本当に刺してくるね。すげぇ痛いよ。めっちゃ効いた……」
「当たり前だ。泣き言ってのは相手を見てから言えよ。出来の悪い生徒のケツを引っぱたくのが俺の仕事だ。俺が学校中から嫌われてるクソジジィだってのがよく分かったか」
「ははは……本当だ。こんな先生学校にいたら、俺絶対近づかねーわ」
智一が何でここに大竹と一緒に来たのか、遠山は何となく分かった気がした。
耳に痛いことをずけずけと言ってくれる人間は稀だ。そしてその耳に痛いことを、自分のために言ってくれていると素直に受け止められる人間も、同じように稀なのだ。
2人の間にある信頼関係を、遠山は羨ましいと思った。それは、誰も自分に教えてくれなかったものだ。
「……大竹って、やっぱり教育者なんだな」
「ああ、意外なことにな」
そう言って、大竹は遠山の肩をぽんと叩いた。
これ以上はこの話は終わりだ。反省している人間に追い打ちをかけるのは間違ったやり方で、説教は短時間で済ませる方が効く、というのが大竹の持論なのだ。
「じゃ、分かったらバーベキューに参加してもらうか」
「え?お、俺はさすがに行かれないよ。皆だって気まずいだろうし……」
「何だよ。火消しに回ってくれたのお前だろ?それに親戚なんだから気にすることないさ」
それでもなお躊躇っていると、大山はとんでもない事を言い出した。
「それに俺、これから設楽のこと、徹底的に酔い潰さねーといけないのよ。というわけで、手伝ってくれる?」
「……は?」
徹底的に、酔い潰す……?
「……智、未成年……」
「いや、今夜はがっつり酔い潰しておかねーと、ちょっと色々障 りがあってな」
「……あんた、教育者……」
「あーもうそういう綺麗事いらないから」
そう言いきる大竹に、遠山は心の底から叫んだ。
「……俺の今までの涙を返せよ……!!」
大竹はその魂の叫びにニヤリと笑うと、「ま、あんたと妹さんの話はちゃんと設楽にしといてやるからさ。とにかく今は手伝ってくれ」と、強引に遠山をおばあちゃんの庭に引っ張っていった。
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