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7日目の朝-1

 頭が痛い。体中がだるい。部屋中が熟柿(じゅくし)臭く、汗にアルコールが滲んでいるようだった。 「……あー、くっそ、宿酔(ふつかよい)かぁ……」  燦々(さんさん)と窓から降り注ぐ日の光に眉を顰めると、大竹は体中の筋肉に叱咤激励をして、何とか体を起こそう……として、体の上に乗っているブツの存在に気がついた。もちろんそのブツは設楽だ。しかもあろう事かそのブツは、服のまま寝ていた大竹のシャツの中に手を突っ込み、胸に頬を押しつけて、足を足にからみつけて眠ってやがった。 「……眠ってる……んで、良いんだよな……?」  この状況で設楽の方が先に起きていたら、相当危機的な状況だということになる。  だが、設楽の口からは、酒臭い寝息がいびき混じりに聞こえてくるばかりで、大竹は小さく安堵の溜息をついた。 「あーくそ……。おい設楽、起きろ。重いって。どんな寝相だよ。しーだーらー、便所行きたいからどいてくれって。お~い」  何とか設楽をどかそうとして、それでも全く起きる気配が無くて、大竹は小さく溜息をつくと、設楽の頭に手をかけ、そのままその唇にキスをしようとして──── 「おい」  あらぬ所から声を掛けられ、びくりと顔を向けると、顔を強張らせた遠山と目が合った。 「……遠山……?」 「……今大竹、智にキスしようとした?」  やばい!何でこいつここで寝てんの!?見られた!思いっきり見られた!!  頭の中が一瞬にしてパニックになりかけた。  だが、そこは長年取った杵柄。大竹は何事も顔に出すことがないという特技を持っているのだ。もちろんそういうありがたい特技は、ここでフル活用しなければならない。 「は?どこをどう取ったらそうなるんだ?おい、こいつのこと引っぺがしてーから手伝ってくれよ」 「つーか何で智はあんたに抱きついてんだよ」 「女の夢でも見てんだろ。マジ便所行きてーから、見てないで手伝ってくれって」  まだ疑わしい顔をしているものの、遠山も設楽の手足を解くのを手伝ってくれた。 「なぁ、何で昨日は智を酔い潰さないといけなかったんだ?」 「つーか話は後。飲み過ぎて膀胱がパンパンだ」  大竹は内心では慌てて、だが見た目はゆっくりとトイレに向かうと、中から鍵をかけて「やべー」と頭を抱え込んだ。 「何であいつ一緒の部屋で寝てんだよ。俺、なんか変な寝言とか言ってないだろうな……」  思い出そうとしても、いつ部屋に戻ってきたかも覚えていないのだ。 「うわー……。キスしなくて良かったー……」  ギリギリセーフ……で、済んだか?と朝の行動を思い返してみて冷や汗を拭う。頭の痛みが倍になった気がした。  何とか顔色を取り繕って部屋に戻ると、遠山が入れ替わりトイレに向かった。  設楽はまだ眠っている。 「設楽、起きろ」 「ん…先生……」  いつものように設楽がキスしようとしてくるのを、耳元に小さく「遠山がいる」と言って封じると、設楽はひどく不機嫌そうに体を起こした。 「もー……何でいるの……?最後のチャンスだったのに何も出来なかったぁ……」 「バカ、寝言は寝て言え。ほら、遠山に突っ込まれる前に飯喰いにいくぞ」 「何?突っ込まれる前にって、何かした?」  キョトンとした顔で訊いてくる設楽に、大竹は「あー…」と言いづらそうに言葉を詰まらせてから、「お前にキスしようとしたところ見られたんだよ」と小さく吐き出した。

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