60 / 69

7日目の朝-2

「え!?マジで!?そういうこと、俺が起きてるときにやってよ!」 「起きてるときにやったら大変なことになるから寝てる間にするんだろ?」 「もー!!ひょっとして、恥ずかしいとか可愛いこと言うの!?それってツンデレって奴!?」 「違うって!何がツンデレだ!俺『ツン』だけで『デレ』ないだろ!も、良いから飯喰いに行こうぜ」 「いや意外と先生デレてるよ?何?デレてないつもりだった?」 「うるさい!」  2人が居間に行くと、すぐに遠山もトイレから戻ってきた。  その場にいたほぼ全員がひどい顔をしている。全員が皆後ろ暗い顔をして、なんとなく額に手を当てている。 「先生、強いですね……」 「いや、俺なんかより伯父さんでしょ……。昨日は久しぶりに飲まされました……」 「やぁ、普段はさすがにあんなに飲まないんだけど、先生も智一も強いから、負けじとついつい飲んじまいましたよ」  昨日、結局どれだけ飲んだのかはっきりしないのだが、おばあちゃんによると一升瓶が3本、大竹が持ってきたバーボンが2本、ビールは1ケースほど消費されたらしい。これが水なら絶対に飲めないというのに、それだけのアルコールが、一体体のどこに入ったというのだろうか。 「……先生、今日帰れます?もう1泊していきますか?」 「……いや、明後日から補習始まるんで、昼まで休ませてもらったら帰ります。何かすいません。最後の最後でとんだ醜態を……」  大竹が申し訳なさそうに笑うと、伯父さんは「いやぁ、また来年来て下さいよ、先生。また飲み比べしましょう」と笑った。  その後、帰り支度をしてから、大竹と設楽、それに遠山は、与えられた奥の部屋でダラダラと横になり、何とか宿酔を追い払おうと唸っていた。  その間、遠山が朝の事を蒸し返すこともなく、昨日のことや美智のことを、直接設楽に言うこともなかった。  お昼ご飯だとおばちゃんが呼びに来て、軽めに蕎麦をいただいてから、さぁ帰るかと腰を浮かしかけたとき、遠山は小さく「ごめんな」と設楽に謝った。 「せっかくの夏休みの思い出がさ、あんま良い物じゃなくなっちゃって、ごめんな」 「もう良いよ。ぶち切れたの俺だし、俺の態度も良くなかったんだよ。それに優兄には最後に世話になったしさ」 「そっか…ごめん」  遠山は泣きそうな顔で笑うと、「あ、そうだ」と、今度は大竹に顔を向けた。 「なぁ、メアド交換して良い?色々聞いてもらって助かったし、良かったらまた東京で飲みにでも行かないか?」  だがそれに返事を寄こしたのは、大竹ではなく設楽だった。 「は?何で優兄が先生と飲みに行くの?」  先程おおらかな態度で遠山の謝罪を受け入れた筈の設楽の顔が、今度は鬼の形相になっている。 「え?な…なんでって、せっかく友達になった訳だし、2人とも東京なんだから別に飲みに行くくらい……」 「何?優兄、先生のことねらっモガッ」 「大丈夫だ設楽!今更遠山も俺からお前の情報聞き出そうとはしないってさ!!」  大竹のでかい手が設楽の口元をガボっと塞ぎこみ、設楽の台詞を掻き消すように、でかい声を張り上げた。 「な!?遠山!?」 「え…?あ、うん……?」  モガモガと口がきけずにいる設楽を無視して、大竹は背中に嫌な汗をかきながら「メアドだな!携帯部屋に置いてきたから、ちょっと取ってくるわ。設楽、来い!」 「ちょ…待ってよ、先生……!!」  大竹が設楽の首根っこを引っ張るようにして奥に連れて行くのを、遠山はポカンとして見送った。

ともだちにシェアしよう!