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第11話
「またいきましょうね」
と、久川に囁かれるように言われ、片倉が自宅前のアパートで下ろされた。
片倉が久川に連れられてホテルに来たその帰り。
少しゆっくりしすぎた、と久川は片倉を風呂に入れさせた後、急いで自身もシャワーを浴びる。服を着ると、つけてきたウィッグをひっつかみ、車まで戻る。そして、ウィッグを取る間もなく、少しスピードを上げ気味に高速を突っ走った。
「どうして、そんなに急いで……?」
ホテルに来る前は紳士的で、安全運転をしていた久川。彼の姿はなく、やや粗暴で、まるで海賊を思わせるような荒々しい運転する男がいた。驚いた片倉の口から歯切れの悪い質問が出ると、高速を降りた後も極力車や信号機のない道を選んで走る久川は17時には空港へ着いていないといけないのだと言う。
「娘達には先にイギリスに行ってもらって、向こうで合流することになっているんですよ」
娘達、という言葉には荒れたものはなく、穏やかであったが、また片倉は複雑な気持ちを植えつけられる。目の前でアメリカ映画張りに軽やかに車を飛ばす男は既婚者で、家庭があるのだ。それに、その崩壊させてはいけない家庭には自身の受け持つ児童がいるのだ。
「どうして、こんな事をするんですか?」
と片倉は聞きたかった。
こんな事。それは久川が昨日、今日と片倉にした性的な事全てだった。ただ、それを片倉が久川に聞くにはあまりにも息が苦しくて、肺も心臓もズタズタになるような感覚がした。
「またいきましょうね」
車が停まり、久川は「本当はキスとか抱きしめたいところだけど」と残念そうに零す。片倉の家であるアパートは久川の家と近いし、学校にも近い。日本史上最大の大型連休としても、旅行へも行かず、家で過ごすという人間もいるだろう。誰に目撃されてもなんら不思議ではなかった。
「連絡するか、今日みたいに待っています」
車と共に、久川が去っていく。片倉はまた息が苦しくなるのを抑えると、アパートの自分の部屋へと入った。
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