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第12話

 今年の5月は例年より長いGWだった。  だが、それも空けると、片倉の勤務している学校でも秋になる前に運動会をしたり、野外活動をしたりして、瞬く間に過ぎていった。 「片倉先生? 片倉先生?」  片倉は職員室で児童から集めていた日記帳に感想を書いていたところ、声をかけられる。  その声の主は江角晴子(えすみはるこ)。新谷小学校2年1組の担任だ。 「江角先生」  何か、と言わんばかりに片倉は口にするが、もう気がつくと、時計の短針は8を過ぎ、9に近かった。 「片倉先生もこの学校へ来て、2か月くらいですよね」  どうですか、慣れましたか。と続く江角の問いに片倉は「ええ」と答える。 見た感じは毅然としていて、とても新任教諭には見えないが、片倉がこの初任校・新谷小学校へ配属されてからまだ2か月余りしか経っていなかった。 「片倉先生は凄いですね。私なんて2、3年くらい経っても慣れない事もあって、きつい事もあったものだけど」  それに対して、一見、20代後半ほどに見えるものの、江角は片倉よりも20近く年上の先輩教諭だった。 「でも、1年はまだ10か月もありますし、あまり根を詰めないように頑張りましょうね。お互いに」  お疲れ様でした、と江角はまだ言いたげだった言葉を無理に締めくくると、職員室を出て行った。おそらく、今日のところはこれくらいで帰れ、という事なのだろう。 片倉はそう悟ると、感想を書こうと開いていた日記帳を閉じて、まだ感想の書けていない方の日記帳の束へと乗せようとした。 「あ……」  日記帳を持つ片倉の指が思わず止まる。  『新谷小学校2年2組 久川灯英』。  4月の終わりに久川の家へ家庭訪問を行った時、久川にも説明したが、1つ1つの文字が、大きさも形も揃っている。その内容もしっかりとしていて、久川や彼女の叔父叔母でもある長崎光臣(ながさきみつおみ)・夏英(なつえ)夫妻の教育が行き届いているのが分かった。

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