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第13話
『5月2日(木)天気 くもり
ロンドンにきて3日目。今日はおしごとと、かていほうもんを終わり、お父さんともロンドンで会うことができました。夏英おばさんや光おみおじさんと4人で2かい立てのバスに乗ったり、大英はくぶつかんへ行ったりしました。とくにわたしがすきだなと思ったのは……』
5月の2日に灯英が書かれた日記はまだ続いているが、片倉は心臓が絞めつけられるような感覚に耐えられなくなって、灯英の日記のページを捲る。
「娘達には先にイギリスに行ってもらって、向こうで合流することになっているんですよ」
と笑っていた久川の横顔が、いつまでも片倉の脳裏へ消えずに繰り返し写し出される。
「みなと、さん……」
人前では絶対呼べない久川の名前を片倉は口にする。
ちなみに、久川にうっかり会ってしまいそうな運動会の日はちょうど1週間前の土曜日だったのだが、久川は仕事だったらしい。
『5月25日(土)天気 はれ
今日は小学生になって2回目のうんどう会でした。わたしはあまり走るのはとくいではないので、すこし行きたくないなと思いました。でも、うんどう会がはじまるまえにかたくら先生から「1番大切なのははやく走ることよりもいっしょうけんめい走ることです」とお話がありました。
今日はお父さんと夏英おばさんはおしごとに行っているので、わたしはさいしょのリレーを光おみおじさんと走りました。1いにはなれなかったけど、朝の先生のお話のようになるようにいっしょうけんめい走ることができてよかったです』
片倉は今度こそ罪悪感で堪らなくなって、まだまだ続いている灯英の日記を閉じると、自分の席を立って窓の外を眺めた。
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