15 / 63
第15話
「あ、先生!!」
掃除用品を買おうと、徒歩圏内にあるホームセンターへやって来た片倉はちょうど窓拭き用のスプレーをカゴの中へ入れているところだった。
こんにちは、と声をかけてきたのは久川灯英だった。
「こんにちは、久川さん」
土日のホームセンターは家族が多いだろうが、これも5月とは違い、6月で梅雨時期なのもあるのか、人は疎らだった。
ただ、家族客が1組もいない訳ではなく、まさか、よりにもよって彼女とばったり会うなんて……
「1人で、来たんですか?」
と片倉は何とか、灯英に聞くことができたと思う。
頼むから久川とではなく、長崎夫妻と来ていて欲しい、と片倉は祈りながら、灯英の子猫を思わせる目が輝く。
「灯英ちゃん!」
「あ、光臣叔父さん」
灯英が腰程の長いツインテールを揺らして、光臣の方へ駆けていく。光臣は小柄な灯英を抱き上げると、片倉の方へ寄ってきた。
久川と比べると、光臣の顎はやや丸めで、鼻も低めだった。それに、目つきもやや釣目がちだったが、綺麗な顔立ちをしていた。
「先生もお買い物ですか?」
「ええ、まぁ……」
休日のホームセンターへ来ていて、仕事だというのもないが、何々が切れたので買いに来たとか、園芸が趣味で苗や種を見に来たついでにウィンドーショッピングをしていた、とか。何か言いようがあったと思うのに、片倉は光臣の世間話に上手く答えられなかった。
何故だかは分からないが、光臣と久川は雰囲気が似ているような気がしたからだ。
「って、買い物以外ではここへは来ないですよね。私はバーベキューのセットを見に来たんです。明日は晴れていたら、灯英ちゃんと妻と港さんとバーベキューでもしようってことになって」
光臣は笑顔で言うと、灯英もはにかみながらこくりと頷く。その様子に片倉は児童の誰にでも同じように「それは楽しみですね」と声をかける。あとは、光臣達へ「それでは」と言い、別れるだけだった。
だが、もう1人、片倉に声をかけてきた。
「片倉先生」
それは片倉が出会わない事を懇願していた久川だった。
ともだちにシェアしよう!