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第16話
「お久し振りですね。健人さん」
久川の運転する車の助手席に片倉はまたシートベルトをして、座っていた。というのも、灯英はこれから友達の家へ遊びに行くらしく、光臣は灯英を送ってからその同じ方向へある夏英の職場まで行くのだという。
「光臣さんが良ければ、残りのものは俺が買って帰るので、夏英さんと食事でもしてきてください。この子も帰りは俺が迎えに行きますので」
と、久川が光臣へ提案すると、話はトントントンと決まり、灯英と光臣は片倉達を残して、店内を後にしてしまった。そして、その場に残された片倉は買い物を終えると、久川に言われるまま車に乗ったのだ。
「今月は健人さんに会えないかなって思っていたんですけど、こんな偶然があるなんて」
ハンドルを握る手も軽く、声も弾んでいる久川に片倉は何とか、「ええ」とだけ答える。他の人ならこんな風に答える事を躊躇ったりしないのに、久川の娘である灯英、どことなく久川に似た雰囲気を持つ光臣、それに、久川自身だとそうもいかない。
「やっぱり運命でつながっているとか? 俺たち」
なんて答えて良いか、分からなくなるし、なんて答えるのが正解なのかさえも分からない。
「なんてね? さっきは光臣さんと何を話していたんですか?」
随分、楽しそうでしたけど……と続く久川の言葉は段々と静かな怒気を含んだものになっていく。それは誤解だと言えれば良いのに、どんな言葉で久川に伝えても伝わらないだろう。
「ひさか……」
「まぁ、この問いには答えなくても良いですよ。月並みですけど、先生の身体に聞くので」
片倉の身体が久川の一言でどんどん熱を孕んだように熱くなっていく。久川の運転する車はいつかのように荒くなる事もなく走り、ゆっくりと久川の運営する写真館へと停まった。
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