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第19話
『2019年度XX県立小学校新任者研修 2019.7.4』
プロジェクターはスクリーンへとそのように映し出していて、片倉は受付で言われたように資料の載っている席へと着いた。見た目だけで言えば、その辺の中堅の教師よりも毅然としていて、余程ベテランに見える。
だが、XX県立新谷小学校新任者である片倉は午後からの授業を隣の2年1組の担任・江角に任せて、研修を受けに来ていた。
「こんにちは」
片倉が着席して20分程が経つと、壇上には日に焼けた、いかにもスポーツマンという感じの風貌の男性が現れる。彼の挨拶に答えるように「こんにちは」と声が会議室に響き、彼は一呼吸おいて話し始めた。
「お忙しい中、研修ということでお集りくださりありがとうございます。本日はハラスメント研修。主に、セクシャルハラスメント防止研修ということで、山口(やまぐち)が講師をさせていただきます」
昨今に限ったことではないが、教師または保護者が児童に対して、あるいは、教師間でも性的な言動というのは社会を巻き込んでの課題になっていて、防止や撲滅は急務となっているのだろう。
「それでは、早速になりますが、15分くらいのDVDを用意していますので、画面をご覧ください」
片倉は山口の言葉に開きかけていた資料を閉じる。
閉じられた資料には『児童がセクシャルハラスメントを受けているのを発見した場合に相談できる』機関や『女性の教諭が相談できる』窓口が紹介されていたが、片倉のように『男性の教諭が保護者に性的な行為を受けている場合に相談できる』窓口は書かれていなかった。
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