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第29話

 久川の運転する車が2時間ほど走ると、少し遅めの昼食を山の中にある蕎麦を出している店でとる。  その外内装はいかにも、蕎麦屋ですという茅葺の屋根に、テーブルや椅子、柱や壁までも木製の、雰囲気のある店なのだが、 「ここは蕎麦も美味いけど、賄いカレーが美味いよ」  と、久川はメニューに目を通すことなく、言ってのける。 「そうなんで……そうなんだ」  片倉はうっかり敬語で返してしまいそうになるを言い直す。教師ということもあり、同僚だけでなく、児童と接する時でさえも殆ど敬語だ。流石に、地元へ帰れば、終始敬語ではないが、友人と同じ口調だと口調が荒くなりすぎる。  なので、自分に1人でも兄弟姉妹がいた場合で話すような感じを目指した。 「じゃあ、カレーにす……しようかな」  まだぎこちない片倉は久川の勧められた通り、カレーを頼んだ。久川のと2人分のカレーが運ばれてくる。確かに賄いメニューにしておくのはもったいない程、野菜や肉の旨味が十分に染み出しているのに、仕事で疲れた時なんかに食べたい優しい味のカレーだった。 「ベジストックかな? 水じゃなくて、出汁みたいなヤツを野菜の皮でオリジナルに作って、煮込んでるみたい。あと、スパイスもオリジナルだった気がする」 「そう、なんだ」  蕎麦を売りにしているにも関わらず、先程のカレーのみに留まらず、そのカレーを使って使うカレーパンや蕎麦粉や米粉で作った食パンも販売しているらしい。  明日の朝食に食べるために、3枚入りの食パンを買って、木苺のジャムやレンゲの花から採れた蜂蜜を買った。 「トースターとか珈琲メーカーは持ってきているからね」  蕎麦屋を出ると、久川はまた運転席に座り、片倉も車へと乗り込んだ。  久川の話によると、本日の宿はもう使われなくなった民家に手を入れて、格安で貸し出すようなサービスをしている友人に頼んで、用意したらしい。 「本当は海が見えるところを考えてたり、全然、違っているけど、夜景が綺麗なホテルなんかも考えたんだけど、人工的な光より星とかの方が良いかなって……それに1番は」 『誰にも邪魔をされずに、健人と2人でいれるから』  なんて久川に言われると、片倉は気恥ずかしい感じもするが、嬉しかった。

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