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第31話
「ああ、食ったね」
片倉と久川は2人で分担してトマトを切り、レタスをちぎっただけの簡単なサラダを作った。とうもろこしや素麺も茹でる。あとは冷やしていた刺身や冷奴を突きながら、麦酒を飲み、ホットプレートで肉や野菜を焼いて、焼肉のタレで食べた。
「健人が好きなものとか嫌いなものが分からなかったから目についたものを手当たり次第、買って持ってきてしまったけど、食べきれて良かった」
片倉はともかく、細身の久川は痩せの大食いという感じで、片倉と同じかそれ以上に、沢山の酒を飲み、肉や野菜も食べていた。
おそらく、カメラマンという職業上、見た目よりずっとタフさや体力のありなしが求められるのだろう。
「やだー、健人。そんなに見られると、俺、体に穴が開いちゃうよ?」
酒を飲んでいるせいもあるだろうが、今日の久川は冗談めいたことを言うことが多いと、片倉は感じると、食事の片付けも分担した。
「片付けが終わったら、縁側でアイス、食べよう。カットしたヤツだけど、スイカも買ってあるし、珈琲も淹れよう」
久川が言う縁側は傷みが激しかったであろう床を直している以外はあまり人の手が加わっていないように見えた。ちなみに、縁側を経て、布団が敷ける和室があり、布団も敷いた。
「ちょっと風があるかな?」
「そう、だね。台風が近づいてるって言ってたけど……」
珈琲やスイカをミニテーブルへ置くと、縁側も小さな間接照明だけを点けて、他の照明を落とした。周りに街や民家の灯りがないためか、星や月の光が分かりやすい。よく評されるような『降るような』というのは大袈裟だが、地方に赴任するまで都市に住んでいた片倉の目には綺麗に映っていた。
「晴れていて良かった」
片倉は口にすると、久川を見る。どちらかと言えば、寡黙な片倉に対して、久川は口数が多い。
だが、人工的な照明がなくなり、月明かりの下の久川は黙って、片倉を見つめていた。
「あの、穴が開きそう……だよ? 港」
先程の久川の言葉を踏まえた片倉の言葉に、久川は吹き出すように笑う。
「港……さん?」
「あー、おかしかった! いや、本当に幸せだなと思って……」
「幸せ……」
「うん。幸せ。健人は俺の初恋の人だから」
凡そ、既婚者とは言えない久川の台詞に。
片倉はどう答えて良いのか、悩むと、また空を見上げた。
久川の言動1つで嬉しかったり、悩んだりする片倉を尻目に空は何も変わらなくて、月や星も同じようにそこにあった。
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