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第33話
「これで9月の授業参観を終わります。相談会にご出席の方は廊下にある椅子にかけてお待ちください」
片倉は児童を帰すと、相談会の準備を簡単にする。9月の授業参観は図工にして、教室の机椅子を後ろの黒板に寄せ、半分くらいにブルーシートを敷いて、その上で絵を描かせていた。そのため、ブルーシートを少し折り畳んで、机椅子を2つほどセッテングする必要があった。
時間にして5分もかかっていないが、相談会を待つ女性達の声が聞こえてきた。
「あの運動会に来ていた方の人が灯英ちゃんのお父さんかなと思ってた。若い癒し系イケメンパパって感じの」
「いや、その人は叔父さんで、7月のアイスの時の人だって」
「ああ、アイスの時の人もイケメンだったよね。ちょっとなんのあれだったか忘れたけど、俺、やりますよって爽やかに言ってくれてね。じゃあ、あの今日とか6月に来ていた女の人がママ?」
「いや、その人は叔母さんで、お母さんはイギリスに行った人だった気がする。ウミエかミナミか、そんな名前の」
どうやら話の渦中にいるのは久川や奥さん、長崎夫妻らしい。
詳しくは長崎夫妻にも久川にも聞くことさえできないが、久川達が長期休みの度にイギリスへ行くのは灯英の母親に会いに行っているからだと片倉は推測していた。
「へぇ、あんな可愛い子とイケメン夫を置いて、イギリスに……。日本に帰ってきてるの?」
久川と光臣をイケメンと評した少しミーハーな感じのする方の女性が事情通の方のする女性に聞く。
当然、久川達が話さないのなら、片倉も聞くべきではないと思っている。それに、あの久川との僅かな幸せな時間すら奪われてしまいそうで片倉は怖かった。
「お待たせしました。1人ずつ順番にお願いします」
少しミーハーな感じのする方の女性はまだ話し足りなさそうに見えたが、事情通な方は椅子から立って、片倉のいる教室へと入っていった。
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