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第40話

「ごめんね、―――」  最後に何て言ったかははっきり分からないが、その言葉を自分にかけてくる人物のことは片倉には分かる。  ある時は町の写真館のカメラマン。  ある時は切ないくらいに片倉に快楽を与えてくれる男。  そして、片倉の受け持つ新谷小学校2年2組の児童の父兄だった。   9月から10月、10月から11月。11月から12月へ。  片倉が籍を置く小学校や近隣の学校のことではないが、相変わらず、世間では教諭や学校関係の不祥事が続いていて、様々に意見が飛び交い、非難に晒されていた。 「何だか、やり切れないですね」  石川が呟くと、片倉も「ええ」と返す。すると、石川は「片倉先生、話、聞いてました?」と返してきた。 「あ、すみません。何の話をされていましたか?」  教員同士というよりは同級生のような会話だが、実際に片倉と石川は出身校は違えど、同学年なのだし、今は研修や地域行事なども含めて職務中ではない。  教員とは言えど、24時間いつでもどこでも、教員であるという訳ではないし、そんなことは不可能なことだろう。 「あ、いや、良いです。ただの愚痴のようなものだったので」 「すみません……」  片倉が謝ると、ジムで汗を流した片倉と石川は近くのファミリーレストランへ向かう。今夜もあのホテルの中にあったステーキ屋はどうですかとは言われたが、あまりにも久川の印象が残り過ぎていた。

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