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第43話
片倉と石川を乗せたタクシーが目的地であるホテルへ着くと、石川はまた運賃を支払い、今度はフロントで部屋を借りる。
奇しくも、部屋は以前、久川に命じられて、借りた部屋と同じ階の向かいの部屋だった。
「片倉先生、ここまでついてきてくださって、ありがとうございました」
石川がパタンとドアを閉めると、最後に片倉へベッドにかけるように勧める。
部屋の間取りは以前、久川に抱かれた部屋とはバスルームのドアの位置やクローゼットの位置等が左右反対だったものの、ベッドのあるスペースに辿り着くことはできた。
「もう話をしても?」
「ええ、と言っても、大体の検討はついているつもりですが……」
「検討が……」
「何故、こんなところへ? って、聞きますよね。普通」
石川は穏やかな声のまま口にすると、片倉は黙ってしまう。
「自分も片倉先生に話したいことは沢山あるのですが、1つだけ言いますね」
「1つだけ?」
「片倉先生、今、どういう顔をされているか、分かりますか?」
石川に言われるままに、片倉はベッドの向かいに備えつけてあるドレッサーへ目を向ける。
鏡の中の片倉は明らかに、片倉が自身でも認識している顔とは違い、生気がないように見えた。
「何があったのかは分からないですが、今日はもう休んでください」
石川は自分の財布からまた幾ら出すと、ベッドサイドを置いて、まだ封を開けていないから、と水の入ったペットボトルを置く。
石川が片倉に好意を持っていることは容易に想像がついた。
「石川……先生……」
片倉は戸惑うように、石川を呼ぶと、石川はふっと息をついた。
「本当は今日、片倉先生へ伝えたかったことがあったんですけど、またにしますね」
おやすみなさい、と石川はドアの外へと消える。
本来なら石川を追いかけるなり、早々にチェックアウトするなり、何らかの行動をとるべきなのだが、何だか、ベッドから立ち上がるのも億劫だった。
「よっぽど酷い顔をしていたんだろうな」
片倉は掛け布団を捲ることなく、そのままベッドへ倒れ込むと、深く目を閉じる。
もしかすると、灯英をはじめとする教え子達や隣のクラスの担任の江角にも悟られているかも知れない。
気を引き締めなければ、と片倉が思う同時に、今は何も考えないで、ただ睡ることを選んだ。
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