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第44話

 冬休みに入る前の終業式が行われる日になり、片倉は灯英や他の児童を家に返すと、午後からの研修会へ向かった。  久川のことは何1つとして変化はなかったが、それでも、ホテルでドロのように眠ったのが良かったのかも知れない。  また正確にはまだ正月休みではないが、今日までで研修も終わり、そこからは仕事や体調などと相談の上、休んでも問題なさそうだったので、そこまでは頑張ろうと思えたのも良かったのかも知れない。  特に、灯英にも他の児童にも、さらに、江角や他の教員にも悟られることもなく、やり過ごせたのではないかと片倉は思った。  あとは、石川にこの前のことで、礼を言う。ホテル代だとベッドサイドへ置かれた片倉が手をつけなかった金を返す。迷惑をかけたと、用意してきたちょっとした菓子折りを渡せば良い。 『もう大丈夫なんですか?』  と石川に聞かれたら、『おかげさまで』と言えれば良かった。 「もう大丈夫なんですか?」 「ええ、あの日は疲れていたんだと思います。おかげさまで良くなりました」  とまで片倉は言うと、会釈する。  あとはこれ以上は石川に勘繰られないように飲み会へも参加して、1次会で帰れば良い。  今年から来年にかけての正月休みは世間的に見ても長いらしく、実家に帰っても良かったのだが、誰かといれば、気を張って、何事もないように振る舞わなければならない。  久川が英国へ行く前、つまり、久川と最後に会った日から3カ月ほど、ずっとボロを出さないように普段通りにして来た。ボロどころか、ボロボロで、崩れてしまうのも時間の問題だった。 「……片倉先生、元気になられたなら、お話があります」  石川と、石川に連れられた片倉は飲み会の会場でもある居酒屋から抜け出すように去る。  しまった、と片倉は石川に促されるように歩きながら思った。  少しだけ元気になったと言えば、良かったのか、と思い、まだ更けきっていない時間帯故に空いていたビジネスホテルに入る。 「すみません、飲食店だと落ち着いて話ができそうになかったので、あらかじめ借りていたんです」  確かに、忘年会シーズンであり、どの店も騒音に雑音が絶えなかった。  現に先程、片倉達がいた居酒屋も例に違わず、そのようであり、真面目な話も締まらないだろう。 「いえ、それで、お話とは?」  話の内容にもよるが、その内容によってはもう石川はこれ以上、接触してこない可能性があった。最初は苦手な同業者くらいの感覚だった石川だが、ジムで身体を動かすくらいのつきあいなら然程、気にならないレベルになってきたようにも片倉は思う。  恋人としては皆無だが、ちょっとした友人くらいであれば、可能性はあるとも思う。 「回りくどいのは片倉先生、嫌いだと思うので、正直に言いますね」  石川は息を吐くと、意外な言葉を言い出した。 「自分は片倉先生が苦手だったんです」

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