48 / 63

第48話

 年末前は年始まで随分と日数があるように思えたが、過ぎ去ってしまうと、あっという間だったように片倉は思っていた。  しかし、やはり石川に身体を許してしまったのを思うと、何年もの日々が過ぎたようにも思っていた。 『もう、彼には相応わしい人間ではない』  と、片倉は思い、すぐに打ち消すように思い直した。 『それを言うなら最初からそうだった』  片倉は久川と同じ性であり、我が子を信頼して、預ける筈の教諭である。  世界中を探しても、これ程、久川を愛すにも久川から愛されるにしても、罪深い人間はいないようにも言える。  だが、久川さえ愛してくれるのなら、そんな罪を一生、背負っても生きていくのも良いとも思っていたのだ。 『だから、もし、今度、彼に会うことができたら……』  とまで思うと、片倉はアパートのドアを開けた。  久川に会うことができたら…… 「片倉先生」  空は片倉が久川に初めて触れられた日の翌日とは違い、青く晴れていて、風さえも吹いていなかった。それに対して、片倉の目に飛び込んでくる、白い大きめの車。運転席の手前のドアから久川港その人が出てきて、片倉に向けて会釈した。 「久川さん……」

ともだちにシェアしよう!