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第49話
たとえ、久川と再会したとしても、ずっと先のことだろうと片倉は思っていた。
ただ、片倉の思いに反して、久川は片倉の目の前にいる。久川の口元が軽やかに動いた。
「お久し振りですね。片倉先生」
「ええ、本当ですね」
様々な言葉が片倉の脳内を巡り、言葉にしようとするが、上手くいかない。
しかも、
「お話したいことが沢山あるのですが、これからお仕事ですよね?」
今日は1月10日で、現在は7時30分を少し過ぎたところだった。
冬休みは既に終わっていて、片倉も学校へ行かなければならなかった。
「ええ……」
「もし、今日が無理なら明日でも明後日でも待っています」
久川はいつかのように片倉へ紙面を渡す。そこへは『18時に写真館で待っています』とあり、片倉が紙面から上げる頃には久川は車の方へ向かって歩き出していた。
「今週の目標は残業しないように、ですからね? 片倉先生」
1日の全ての授業が終わり、新年会に行ったり、長めの正月休みの名残で早めに帰宅したり、と少し浮き足立った職員室。
片倉のクラスの隣のクラスを受け持つベテラン教諭・江角が片倉に言ってくる。
片倉は彼女の念押しに「ええ」と言うと、算数の教材を用意する。翌週の水曜日は算数の授業参観日を控えていて、様々な文章問題に挑戦してもらおうと考えていた。
『もし、今日が無理なら明日でも明後日でも待っています』
という久川の言葉と姿には鮮明さがあり、それが片倉の意識を奪うと、片倉は他の教師と同様に帰り仕度をし始めた。
久川に会いたくて、堪らなかった。
でも、教師と父兄としてではない関係で、会えるのはこれで最後かも知れない。
彼らとは何でもないのに、光臣や石川に嫉妬して、片倉の意志も無視して、身体を快楽で支配した。
だが、もはや、嫉妬を通り越して、汚れたものとして捨て去られても、文句は言えなかった。
しかも、久川には何年も前に行方不明になっただろう妻もいる。
本当に彼女だったのかは片倉には分からないが、続くには誰かが不幸になってしまう物語のように思えた。
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