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第50話

 新春を迎えたとは言え、まだ日が長くなったとは言えない、仄暗い夕暮れの道。  新谷小学校からとぼとぼと歩いて、久川写真館を訪れた片倉は灯りのついたドアを開く。 久川は既にドアの付近にいて、片倉を招き入れた。 「寒かったですよね」  と、久川は片倉を待合室のソファにかけるように勧め、片倉と初めて出会った日と同じように温かい珈琲を置く。 「……」  珈琲を飲むでもなく、味を調えるでもなく、片倉はカップを徐ろに持ち上げると、真っ黒な珈琲を見る。思えば、この1杯の珈琲で、久川との関係が始まってしまったのだと思い至る。  そして、久川との関係が終わっていくのだとも。  片倉はチラリと久川の方を見ると、久川も完全に笑顔という訳ではなく、複雑そうな顔で笑っていた。 「話したいことがあるとか?」  片倉は自分でも思いがけないことを口にした。  話したいというより話さなければならない話なら片倉にもある。  ただ、話してしまえば、片倉としてはどんな結末を迎えても、久川の話は聞けなくなってしまう。久川にしてみれば、我儘だとは思ったが、これが最後だというなら許して欲しいとも片倉は精いっぱい、笑ってみせた。 「話を……聞かせてください」 「分かりました。いつだったか、ここで貴方に聞かれたこととか……痛めつけるように貴方の身体に触れてしまったこと……全てお話しします」  その為には久川は自身の家族について語らなければならないと言う。 「ご家族のこと……」 「ええ、家族です」  すると、久川は写真館の隅に方へ飾られた1枚の家族写真と男性の写真に視線を遣った。

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