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第51話

「右の写真が俺の父なんですけど、煙草が好きで。肺がやられるまで吸ってたんです」  久川の説明に、片倉は男性が1人で映る写真を見ると、確かに煙草が似合いそうなセクシーな人物で、目元の皺がなければ、久川にも似ていた。 「そんな父がある日、ポツリと言ったんです。煙草は美味かったけど、もし、やってなかったら、もっと長く生きれたんかなって……」  久川は珈琲を一口、飲むと、様々な話をしていった。  父は早くに奥さんを亡くして、子どもは久川1人だったこと、意外と子ども好きだったこと、ただ、カメラの扱いや撮り方には厳しかったこと。 「もし、孫ってヤツがいるなら、優しくカメラを教えて、一緒に仕事がしたいなって……それから、俺は思うところもあったんですけど、そのままで。波英さんと会ったのはそんな時でした」  久川は珈琲をもう一口、飲むと、さらに様々に話をしていった。  出会ったのは父の病院につき添った時で、彼女も同じように母の病室へ行っていた時だったこと、彼女の母も子ども好きで娘が結婚して、孫が生まれるのを楽しみにしていたこと、彼女もカメラマンであり、病で余命のない親を持っていて、他人には思えなかったこと。 「彼女は俺なんかと違って、凄いカメラマンで、本当に良いのかとも思ったんですけど、今まで散々、好き勝手してきたから孫ぐらい会わせてあげたいって……」  お互いに相思相愛の夫婦というよりは、意気投合する戦友みたいな感じではあったが、トントンと結婚話が進んでいったと久川は言う。

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