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第53話
久川は立ち上がると、家族写真の方へ向かう。
写真に写るのは今より少しだけ若い久川が生まれたばかりの灯英を抱いて、その横にはお互いによく似た波英と夏英、夏英の夫の光臣。それに、波英の母親であろう60代くらいの女性が椅子にかけてにっこりと笑っていた。
「凄く素敵な人達で、子どもはできなくてもああ、結婚して良かったなって思ってたんですけど、やっぱり、波英さん達は諦めなかった。それで、あの子が生まれたんです」
普通に考えると、灯英と彼女にとって叔父である光臣は遺伝子的に似ていなくても、不思議なことではない。
しかしながら、片倉としては灯英と彼女にとって父である筈の久川よりも光臣の方が釣りあがったような目元が似ている、と思っていたのだ。
「生物上の父とか、戸籍上の父とか言うんでしょうか? 生物上の父親は言えないですけど、俺はあの子の戸籍上の方の父親になれたんです」
灯英にとって叔母である夏英が実の姉と自分の夫との間に生まれた子どもを実のところ、どう思っているか分からないが、少なくとも、灯英のことを話す久川はとても柔らかい口調だ。
柔らかくて、あたたかい。
ただ、一方で壁があるような、遺伝子では繋がれていない父子の関係だという事実が見え隠れしているようだった。
「もしかしたら、あの子を色んな意味で傷つけるかも知れない。だけど、俺は波英さんとした約束もあった」
「約束……」
片倉の口から短い言葉が溢れる。
約束……それは波英よりも好きな人が久川にできたら、その人と幸せになって欲しい、というものだ。
「誰かを理性もきかなくなるまで、好きになったなんてこと、なかったので、貴方には酷いことばかりしてしまったけど……そのくらい貴方が好きだったんです」
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