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第58話

「今年はあんまり早く散らなかったら良いけど……」  灯英が去り、石川が去り、江角が去っても、新谷小学校では今年も卒業する6年生を中学校へ送り出す。そして、保育園や幼稚園から新1年生として入学してくる。 片倉は金曜の定時後も体育館の点検をして、入学式の準備に追われていた。それでも、江角の言葉を胸に、定時を2時間程過ぎてしまったが、何とか、入学式の準備に目途をつけ、職員室を後にし、呟いた。  桜の木が立ち並び、外灯で照らされている、バイク置き場に向かう途中、片倉は桜のことを気にかける。  だが、それも束の間のことで、片倉は鞄から封筒を取り出す。  学校へ片倉宛に届いたということではないが、これから週末を過ごす家へ帰って、1人で開けるには勇気がいったのだ。ここで読んで、もし、それ以上は読めそうになければ、そのまま家に帰った後、何も考えず、ゴミ箱へ捨ててしまえば良い。 『片倉健人様  お元気でしょうか……なんて聞ける立場でもないのですが、もし、貴方が俺以外の人と幸せになることができていたら、嬉しいです。この手紙の先は読まず、破棄してください』  いつだったか、片倉は人生で、最初で最後の不倫旅行へ行った。その時にもらったメモやその不倫相手と最後に会った日に受け取ったメモと同じように並ぶ文字列。 片倉は外灯の光を頼りに空欄の目立つ1枚目の便箋を捲り、2枚、3枚と便箋を捲っていく。 『さっき、「貴方が俺以外の人と幸せになることができていたら、嬉しい」と書きましたが、それは嘘です。そんな風に考えることができたら、良かったのかも知れないけど、もう1度、貴方と出会えることを願って、封筒の場所で待っています。 久川 港』  封筒には片倉の氏名の他に、『久川写真館』とあった。

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