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第12話
「まああ、晃彦さん、今夜の夜会では素敵なお誘いが有ったのよ。わたくしの実家で、来週の日曜日に園遊会を開くそうなの。誰か晃彦さんのお友達を招待してくれと父様が仰っていたわ。三條様なんていかがかしら」
赤く紅を引いた唇が賑やかな音を立てる。父も屈託なげに笑っている。二人ともポオトワインを聞こし召しているのだろう、いつもより機嫌がいい。口紅の色に合わせたルビーが煌めく。
「そうですね。考えておきます」
それだけ答えると味を感じない食事を続けた。
俺の家族は現在を楽しみ、未来を夢見ている。そうだ、過去の恨みは単にお題目で言っているに過ぎない、片桐とは違う、そう感じた。
園遊会に誘ってみるか・・・。思いつき、母に言った。
「片桐君を誘いたいと思うのですが」
その発言に、晃継以外の人間は動作を止めた。
「片桐って・・・『あの』片桐伯爵の長男ですの」
「ええ、そうです。最近、彼と親しくなりまして」
表情を消した顔で言った。
「伯爵夫人とは親しくさせていただいているのだけれど、それ以外はあまりお付き合いは遠慮したいわ、ねえ貴方」
「そうだな…片桐家と付き合うのは止めなさい」父も厳しい顔で言った。
「三條様をお誘いなさい、ね」
絶対に片桐を連れて行くと決意しながら、
「では三條君をお誘いしてみます」とだけ言った。
翌日も寒い日だった。片桐は風邪を引かなかったかを案じながら登校した。三條は母のお気に入りだから早いうちに断っておかねばならないとも思った。
教室に入ると、先に登校してきた生徒が1人だけ居た。片桐だった。
驚いた顔をしていたが、顔に嫌悪の表情は見出せなかった。敢えて平静な声で聞く。
「風邪など引かなかったか」
唇を触りながら、
「お蔭様で…。昨日は世話を掛けて済まなかった。ああ、学校では、オレに声をかけるのは止めてくれないか」と言い辛そうに言った。
「何故だ」
無性に腹立たしかった。昨夜、彼の心に近付けた気がしていたので胸に傷を負ったように思えた。
「昨日はとても世話になった。そのことは心の底から感謝している。しかし、オレは武家華族から嫌われている。オレと友達になったらお前までが嫌われるだろう」
そう言いながら相変わらず唇を指でなぞっている。
「お前だって武家華族の友達は居るだろう」
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