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第13話
「ああ、しかしご一新前は賊軍だった連中だけだ。」
そうだったのかと今更気づいた。徳川に味方をした武家華族出身の子弟と、敵対した大名達の子弟から構成される武家華族出身の子弟は表面では何でもなく振舞っているが、見えない溝を感じたことが有ったことを。
「オレ達に含むところなく接してくれるのは実戦を経験していない公家華族出身者だけだ」
「それは事実かもしれないな。ただ、昨日の義理と思って聞いてくれ。来週の日曜日、所用はあるか」
「いや、特にはない」
「では俺と一緒に来てくれ。鮎川公爵の園遊会だ。公爵は公家華族だから構わないだろう」
冷や汗をかく気持ちで言い募る。片桐は唇に手を当てたまま、「鮎川公爵か・・・」と呟きながら考え込んでいる。勿論この学院に居る限り華族の噂は早い。名前を知っていてもおかしくない。唇から細い指を離すと、唇を緩めて言った。
「オレと一緒でいいのか」
「鮎川公爵とは会ったことは」
「鮎川公爵と母の実家の池田侯爵は縁続きだ。だから数度お目にかかったことはある」
「では決まりだな」
頬が弛むのを感じながら加藤は言った。片桐は、指先をまた口元に寄せて
「その代わり、学校では口を利かないことが条件だ」
強い口調で言い切った。
「分かった、そうするように心掛ける。では、詳しいことは電話で」
「電話?それは困る。女中か家族の者が出るのがオレの家での慣わしだ」
「構わない。三條の名前を使わせて貰うから」
唇に指を当てながら考え深げにうなずいた。
後は、三條に園遊会への欠席を頼むだけだ。そう思っていると、クラスメェトが1人教室に入って来た。
人の気配を感じると、片桐は唇からさっと指を離し「早く行け」と言うような視線で加藤を見た。加藤は何気なく席を離れると、朝の挨拶をクラスメェトにした。同じように片桐もする。
三條が登校してくるのを待ち構えていた。彼は天真爛漫な性格なので自分の頼みは断らないとは思っていたが。
三條が教室に入って着た。人気のない場所に呼び出す。
「頼みがある。頼まれてくれるか」
真剣な声で言った。
「お前が頼むのは珍しいな。僕で出来ることだったら良いのだけど」
おっとりとした口調で言う。
「来週の日曜日に母上の実家で園遊会が開かれる。友達を連れて来いと言われたのだが…親友のお前には申し訳ないが、どうしても連れて行きたい人間がいる。だから・・・悪いが今回は一緒に行けない」
「それは全然構わないけど…それに鮎川公爵からは招待状が届いたことだし。しかし気になるな、誰を連れて行きたいのか・・・」
「片桐君だ。昨日偶然話す機会が有った。それで興味がわいた。俺は彼のことをもっと知りたい」
「ああ、彼か。確かに君達のような由緒の武家華族を拒んでいる気配があるな。良い機会だ、ゆっくり話せば良い」
おっとりしていても、代々天皇陛下や上位の公家の気持ちを推量するのが習いだった公家出身だけあって、人間関係の観察は鋭いらしい。
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