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第15話

「…我が加藤家は片桐家とは確執があったことは晃彦さんも良くご存知でいらっしゃるでしょう」 「それは重々承知しています。しかし、僕としては片桐君ともっと親しくなりたい、そう願っています。お願いいたします」  必死の形相で頼み込んだ。母は優雅な動作で紅茶を口にする。すっかり飲み終えるまでは無言だった。 「晃彦さんはわたくしにお願い事をしたことがおありにならなかったわね。それだけ、片桐家の人間と親しくなりたいのですか」 「はい、片桐家ではなく、片桐君と親しくなりたいと思っております。一生のお願いを聞き届けて下さいませんか」  母は無言で考えているようだった、自分の顔を凝視しながら。 「そうですか・・・晃彦さんの一生のお願い…」  厳然とした顔をして母は言った。 「お父様の手前、片桐家の人間をわたくしが招待するわけには参りません。…そうかといって晃彦さんの一生のお願いも聞いて差し上げなければならないと思います。父上に頼んでみましょう。父上はわたくしの頼みなら引き受けて下さると思いますもの。それで宜しい?」 「はい、宜しくお願い致します」  安堵のあまりため息が出た。 「わたくしは加藤家に嫁いできた人間です。ですから片桐家の人間は敵だとお考えになる夫の考えには従わなくてはいけません。ただ、晃彦さんの考えにも同調出来る部分もありますわ。ですから今回のことは晃彦さんのお願いを優先させましょう。敵だったのは昔のこと、今はそういう確執に拘ってはいられないことぐらい、わたくしにも分かりますわ。大切なのは未来ですから」 微笑みながらそう言った。しかし、次の瞬間おもむろに表情を変え、 「でも、片桐家のことで協力することは、これで最後に致しましょう」  厳しい口調で言い切った。  母の部屋を後にすると、安堵の思いが広がった。やはり母は公家出身のせいもあってか、三條と同じような思考をするのだなと思った。そして、片桐と園遊会に一緒に参加出来ることの歓喜の思い。  すぐに電話室に入り、片桐の家に電話する。勿論三條の名前を騙って。  電話に出た片桐は、晃彦の話を聞いても淡々とした話し方をしている。 「よく、オレを招待していいというお許しが出たな」 「ああ、実は母上に泣きついた。母上は一度約束されれば必ず実行してくださる性格だ。だから大丈夫だ。それよりも、お前は大丈夫なのか」 「家のことか。今回の園遊会が加藤家主催なら絶対出席はさせて貰えないだろう。しかしそうでないから大丈夫だ」 「そうか、いささか安堵した。お前の気持ちが変わったらどうしようかと」 「そんな…それよりも、オレは社交界に出たことがないから失敗しないか不安だ。お前のように場慣れしていないからな」 「大丈夫だ。俺が責任を持ってお前の面倒をみるから」 「…そうか、有難う」 「では招待状を送るから一緒に行こう。家から自動車を出させる」 「いや、それは…。お前は父上や母上と一緒の車だろう、そんなことは無理だ」

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