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第22話

「分かりました」  そう言って、平静な顔をして園遊会が終わるまで仕方なく其処に居た。  片桐のことが一番気になる。屋敷の奥まった園遊会の主賓室に自分は居る。そして、片桐達はその主賓室よりも奥まった所にあるので、黙って帰ったとも思えない。片桐も社交行事慣れをしていないと言いながらも完璧な立ち居振る舞いを見せたのだから、屋敷では厳しく躾けられていることが分かる。そのような人間が主催者に黙って帰ることは有り得ない。しかも、三條の姿もあれから見ていない。彼は社交慣れしている男だから、片桐よりも一層、そういう配慮は身に沁みて知っているはずだ。と、すると、二人はずっと「あの」部屋で話しをしていると考えるのが順当だ。  当たり障りのない会話を楽しんでいるように見せかけて、今頃は片桐がどうしているのか・・・や、今日感じた危うい衝動について考えていた。  オレは、確かに、あの時、彼に、欲情して、いた。  この想いは、喉の乾いた人間が水を得た時と同じようなものなのかも知れない。必要なものが近くに有りそれを切望している……。  だが、問題は家族だ。片桐とああいう風に接しただけで執事を兼ねているとは言え、女中頭のキヨを迎えに来させるとは…予想はしていたが、予想以上の厳しさだった。  この想い、伝えない方がいいのでは、ないか。  唇を噛み締めて晃彦は思った。  園遊会も終わりに近づいた時、三條が片桐を伴って近づいて来た。片桐は丁重な辞去の挨拶を祖父にしている。そして、自分の両親にも。完璧な挨拶だったが、父も母も丁寧だが、氷を思わせる目つきで挨拶を返す。それでも片桐はその事に気づいた素振りは全く見せずにいた。気付いているに違いなかったが。  片桐と一緒に帰りたかったが、とてもこの場では言い出せない。三條にも礼を言いたかったので三條の自動車に同乗させて貰う事にした。両親のあの様子だと、一目のない所では叱責が待ち構えているだろうと覚悟は出来ていたが、なるべくならお叱りは後にして欲しかった。片桐は自分の家の自動車で帰って行った。見送った加藤に向かって柔らかな微笑みを浮かべ、唇に人差し指を当て輪郭をなぞるようにしていた。  三條家の自動車に乗り込むと、早速感謝の言葉を述べた。 「僕は全く構わない。親友のお前の頼みでは断れない。お前には親愛の情を持っているから」 「片桐君とはどのような話しをしたのだ?」  一番気になっていた事を聞く。 「ああ、他愛の無い話だったよ。彼は僕が想像していた以上に良い人間だった」 「そうか…それは良かった」  片桐を褒められると自分の事のように歓喜の思いが込み上げてきた。真顔に返った三條は言った。 「片桐君の話なのだが、人の耳の無い所で話しがしたい」  運転手を憚るように小声で囁く。

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