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第23話

「では、お前の屋敷に寄っても構わないか」 「勿論」  運転手に三條はその旨を伝える。晃彦は三條の自動車に乗り込んで二人で祖父の屋敷を出た手前、家族には三條邸の電話室で電話を掛ければ家族は問題にしないだろうと思った。  三條の勉強室兼書斎に落ち着く。三條が使用人を遠ざけた時、晃彦は開口一番尋ねた。 「話というのは、何だ」 「お前、片桐に惚れているな」  断定口調で言った。 「……何故分かった」  親友でもあり、今日は随分と世話になった相手でもある三條には嘘は吐けない。 「お前は、しがらみを振り切ってまで彼を園遊会に無理に誘った。しかも、今日のお前は様子がおかしかった。ずっと片桐の姿を目で追っていた。それでピンと来た」 「今日、はっきりと自覚した。彼に惚れていると」  毅然と言い切った。 「そうか。では言わせて貰うが、片桐君もお前の事は意識している」  意外な言葉に加藤は目を見開いた。 「意識とは…どういう意味だ」  意外な言葉に些か面食らった。気付いて無かったのかという笑みを浮かべて三條は言った。 「園遊会の時に思った。片桐君は学校でも笑みを浮かべるが、あんな微笑はしない。そう園遊会でも僕は言った」  記憶を辿る。色々な事が有り過ぎて今まで記憶の隅に眠っていた会話が蘇ってきた。 「ああ、確か『あの時の笑顔は僕の見た事が無い笑いだった』と言っていたな」 「そうだ。僕の記憶では片桐君は誰にもあんな微笑を浮かべて居なかった、それは確かだ」  断定するように言った。人間観察の鋭い親友の意見だ、信用は出来る。その上、自分が親友にと見込んだだけのことはあり、彼は信頼出来る人間だ。全てを打ち明けたいと思ったし、彼の意見を聞いて置きたいと思った。 「彼は俺の事を意識していると言うがそれは彼も俺と同じ気持ちでいるという意味か?」  しばらくの間が有った。思慮を重ねているような顔を浮かべた三條の顔を見ていた。 「そこまでは…分からない。それは本人にしか分からないだろうな…。ただ、お前は片桐の特別だと思う」 「…特別…か」  正鵠を得た答えだ。確かに本人に聞いてみるしか分からないだろう。  「お前が部屋に来る前、確かに俺は片桐に触れてみたいという欲望を感じた。それは変だろうか」  頤に手を当てて三條は言った。 「精神的に惚れているのではなく、か?」

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