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第25話

「複雑・・・か?その機会を与えたのはお前だろう」 「それはそうなのだが、絢子様などは彼にご関心をお持ちになられたようだ。どなたかと御交際にまで発展すると考えると彼を取られたような気がするだろうな」  眉間にしわを寄せ自分の心情を吐露すると、三條は優雅に微笑んだ。 「独占欲か、恋愛感情の厄介な点だ」 「やはり、恋愛の情か…。しかし、この様な気持ちに成ったのは初めてだ。彼の事を良く知りたいとは思っていたが。他の令嬢達を見ても綺麗だと思ったことは有っても、良く知りたいと思った事もない、ましてや欲望を感じた事は無かった」 「恋愛はするものではなくて、落ちるものだからな。理屈や理性では制御出来ない」  三條が記憶を辿るような顔で言った。その発言に少し驚いた、 「お前はそういう経験が有るのか」 「いや、残念ながら僕には無い。ただ、僕の家は千年もの間続いて来た家系だから色々先祖の話を聞いたり、古典文学を読んだりしてそう思った」 「成る程…そういうものか」 「ああ、そういうものだ。矢張りこういう家で育つと先祖の生々しい話を他人事ではなく聞くからな。お前の家では大名だったのだから恋愛に関してはそう重要視しては語らないだろう」 「ああ、せいぜいが側室の誰かを特に寵愛した等と云う話が伝わっているだけだ」 「その違いだな。僕達の先祖は恋愛を重視したらしい。だからお前の話も納得出来る点が多いし、理解することも出来る。お前の先祖でも男色の好みの人間くらい居ただろう?」 「そういう話は聞いているが…実感としては全く感じられなかったな」 「しかし、落ちてしまったものは仕方無い。そうではないか」 「全くその通りだ」  苦笑を浮かべてしまった。 「御家族にはきっと苦労するだろうが、本当に落ちてしまったのかをどうか見極めるまで想いを確かめろ。何度でも言うが僕は協力を惜しまないから」  心に刻み込まれる忠告だった。ふと柱時計を見ると予想以上に時間が経過していた。三條も視線を逸らし、 「そろそろ屋敷に戻った方が良いな。御両親がきっと待ち構えていらっしゃるだろう。車で送らせる」 「そうだな。今日はお前が居てくれて良かった。ただ車で送って貰うには及ばない。色々考えたいと思うので、散策がてら徒歩で戻る」  門の所まで三條を始め使用人達に送られた。三條邸と自分の屋敷はそう離れていないので物思いに耽るのは丁度良かった。そして、両親の叱責に対する対応も考えなければならなかった。  屋敷に戻ると門番からの知らせが届いたのだろう。マサを筆頭に使用人達が出迎えた。マサは厳しい顔をしていた。一通りの挨拶が済むと切り口上で言った。

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