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第27話

「三條様と、片桐家では全く違います。三條様は御味方で、片桐家はいわば仇ですのよ」 「しかし、それは過去の話ではありませんか」 「まだ、言い返すのか…それならば、ワシにも考えがある。こちらは侯爵家で、片桐家は伯爵だ。こちらが上位だ。社交的にも政治的にも片桐家を葬ってしまう事も出来る。晃彦の返答次第では、な」  重々しい声で言った。  確かに父と母の人脈なら片桐家を窮地に陥らせる事は可能だろう。断腸の思いで言った。 「……分かりました。彼とは、これ以上親しくは……なりません」  そう言い切ってしまった後、室内には静寂が立ち込めた。父母は黙って自分を見ていた。   想定内の父母の怒りであったが、矢張り実際に叱責されてしまうと予想以上に心に響く。  但し、片桐の事を諦める事も不可能な事実では有った。今夜は眠れそうにないな…と自嘲的に思った時、扉の向こうで使用人の声がした。 「晃彦様、家庭教師の先生がお見えで御座います」  母は安堵した微笑を浮かべた。 「先生がいらしたのですから、お待たせしてはいけませんよ。折角貴重な時間を割いて来て戴いている帝国大学の英語の先生なのです。早くお部屋に戻らなくては」  父は厳しい顔をして、ただ頷いた。 「では失礼します」  そう言い置いて静かに部屋を出た。  案の定定刻に寝台に入っても眠りは訪れなかった。朝が来るまで自分の考えを整理しようと努める。自分の立場や父母の思惑、そうして片桐家への配慮。そして片桐への恋情。しかし、中々纏まらないまま、夜明けが訪れた。起床にはまだ早いと思ったが、制服に着替え、朝食用の部屋へ行った。支度をしていた女中が二人、驚いたような顔で挨拶してくる。 「早い時間で済まない。珈琲だけを用意して欲しい」 「畏まりました。晃彦様」  屋敷の人間も只ならぬ雰囲気を察しているのだろうかと苦笑がわく。父母とマサ、その思惑で屋敷が動くのが現状だ。嫡男である自分もまだ学生の身分なので父母の庇護の下に生きている、その事実は自分で動かせるものではない。片桐も同じだろうと思った。   彼の事を本当に大切に想うのなら、自分の気持ちは伝えてはならない。  寝台の中で決意した事だったが、本当に守りきれるかどうかは自分でも分からなかった。

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