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第29話
眉間にしわを寄せて囁く。
「ああ、父母に叱責された」
「そうだろうな」
吐息が洩れた。
「昼休みにでも聞いて貰いたい話が有る」
強張った顔を見て、察したのだろう。
「彼の件か」
ちらりと黒田と話している片桐に視線を送る。
「ああ、そうだ。しかしこの場では不都合だ。」
「中庭はどうだろうか、あそこなら人は来ないのは承知の通りだ」
中庭と聞いて今朝の件を思い出し、動揺したが、顔には出さずに言った。
「弁当を使ってから、中庭の楠の木の所に居る」
「ああ、分かった」
昼休み、約束の場所に行った。三條は先に来ていて楠の木に凭れていた。奇しくも片桐と同じだった。三條ではなく、片桐の表情を思い出してしまった。
「彼と話した。彼は『オレとは関わらない方がいい。今まで有り難う』と言った。だから困惑しているし混乱している…心がな。」
苦笑を浮かべて言った。三條は眉間に皺を寄せて、
「僕には、お前の事を思って片桐君がそう言ったように思える。彼の背負って来たものの大きさを考えると、お前の事は目の仇にするのが普通だろう。それなのに『有り難う』と言う気持ちがあるなら、お前の置かれている立場を慮っているのではないか」
「…そうかも知れない。昨日の件は我ながら突然のことで唖然としたが…。彼の事を大事に想っているのなら近付かない方がいいと思う」
「僕は思うのだが、冷却期間を置いてみた方が良いのではないか。もしお前の気持ちが本物でないのなら、自然に冷めてくるだろうし、そうでない場合は、思い切って心情を吐露すれば良い」
いつもながらの的確で親身な忠告に、
「彼の事はしばらく考えてみる」
感謝を感じながらそう言った。
「僕も色々と情報収集してみるし、お前の相談ならいつでも受け付ける。その代わり宿題は写させてくれよ」
愛嬌のある笑顔でそう言った。三條は鋭い。多分、自分に負担を掛けないために、宿題と言う交換条件を出して来たのだろう。
「そうそう、情報収集と言えば、片桐君は熱心に英語の勉強をしているそうだ。僕らの学校の授業以外に、家庭教師を付けている」
「何故、知っている?」
「偶然だ。昨日僕の屋敷に家庭教師の先生が来られた。園遊会の話を英語で話しているうちに、片桐君のことも話したら彼も同じ先生に教えを請うていると分かった。僕なんかよりずっと流暢な英語を話すそうだ。先生が僕に向かってそう仰った」
「英語?」
晃彦は、自分と片桐の接点を見つけたようで嬉しかった。好きな人間が同じ興味を持って居る事が分かるとこんなにも胸が躍るとは思わなかった。
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