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第33話(第二章)
「……まずは彼の気持ちを確かめる。俺の気持ちを正直に話して。彼が絢子様を好きと言うのなら潔く諦めよう。もし、そうでないのなら、彼の事は俺が守る」
「そう言うだろうと思って居た。だから早く知らせたいと思った。手遅れに成らない内に」
三條は莞爾《かんじ》と微笑んだ。
「有り難く思う。ただ、彼の立場から見ると絢子様と結婚した方が良いのだろうな」
「それは、片桐君次第だ。彼自身が幸せになる為にお前を振って絢子様との御縁談を進めるならそれはその時の事だ。お前には残酷な言い方だが、全てを明らかにした上で彼が絢子様を選ぶなら仕様の無い事だ。その時は自棄酒に付き合う事にする」
冗談めかした口調で言ったが、目は笑っていなかった。自分の事を真剣に案じてくれているのが分かる。
「……そうだな。明日にでも俺の気持ちを伝えるだけは伝えようと思う」
「それが一番良いだろう。しかし、場所が問題だな」
「ああ、学校では……な。壁に耳有りだから」
学校では絢子様の件を知っている学友が居そうだ。そうかと言って屋敷に呼ぶ事も出来ない。屋敷も違った意味で障子に目有りだ。
「良かったら僕の屋敷を使わないか。僕の家でなら自由に話せる筈だ。過去の柵《しがらみ》など無いからな」
「……そうさせて貰って構わないのか」
「親友のお前の為だからな。信用出来る使用人しか僕の部屋には近付けさせないようにする。父母も別に誰を招待しても気になさらない。片桐君にも僕から伝える」
何でも無い事の様に言った。
「この恩は一生涯忘れない」
心の底からの言葉だった。
「ああ、恩に着てくれ。高くつくから」
愉快そうな口調だったが、心の中では自分を案じて言ってくれているのが分かった。
三條が帰り、自室で一晩考えた。本当に自分の心情を伝えても良いものかと。彼を困惑させたり、迷惑に思われたりするのも、本意ではない。しかし、伝えずにはいられなかった。今まで忍んで来たのは、彼の立場を慮ってのことだった。しかし、事が大きくなる前に彼の気持ちを確かめずには居られない。
まずは片桐の縁談がどの程度進んでいるのかを確かめる。もし、本人が絢子様の事を好きなら、自分の気持ちは告げない。
「しかし、自分以外の人間が片桐の隣に立つと考えただけで、胸が焦げる」
独占欲で狂いそうだった。片桐家の事は勿論、自分の家さえもどうでも良くなって来た。今まで、教室で眺めているだけで我慢出来たのは、彼が他の誰かと特別に親しくなって居ないと確信していたからだと思い知らされた。
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