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第34話(第2章)

 片桐が絢子様の事を何とも思っていないのなら、自分の気持ちを素直に告げよう。確かに自分の家は片桐家の敵だ。それは分かっている、痛い程。それで今まで告白に躊躇が有った。しかし、どうせ駄目な事なら告白をしないで後悔するよりも、告白をして玉砕する方が、まだ増しであるように思えた。 (しかし、拒絶は不可避だな)  そう自嘲した。しかし、一縷の望みを託して決行するしかない。そう思った。  三條が自分の屋敷に片桐を呼び出してくれる。そう約束してくれた。明日、彼は三條の屋敷に来るだろうか…。三條の呼び出しが自分絡みで有る事位、彼には分かる直ぐに察する事が出来るだろう。来てくれればいい、そう切実に思った。    翌朝、登校した。片桐はまだ学校には来ていないようだ。すでに教室に居た三條は快活に朝の挨拶をし、 「僕に任せてみろ」  肩を叩いた。  片桐が登校して来た。早速三條が教室の隅に呼び出している。二言三言、何か言っていた。それを全身で感じ取ろうとした。片桐は、平静な様子でただ頷いていた。  三條がこちらにやって来た。 「どうだった」  急いで尋ねた。三條は微笑を浮かべながら、 「片桐君は今日、特に用事が無いそうだ。帰宅途中に家に寄ってもいいと。勿論、お前も来ると言っておいた」  授業に身が全く入らないまま、放課後を迎えた。三條は自動車通学をしている。それに便乗させて貰った。片桐も誘ったのだが、「一人で行く」とそう言っていた。  三條邸に着くと、加藤は三條の部屋に落ち着いた。 「どうだ、気持ちは固まったのか」  女中の入れた紅茶を飲みながら三條は聞いた。 「ああ、とにかく片桐が絢子様との未来を考えているのならそれ以上は踏み込まない。しかし、そうでないのなら気持ちは伝える。そう決めた。しかし、多分振られる…な…」 「それはしてみなければ分からないことだ」  そんな事を話していると扉の向こうで「片桐様がいらっしゃいました」と女中の声がした。掌が汗ばんでくるのを感じた。  幾分緊張した様子で片桐が姿を現した。三條は天真爛漫な笑顔を見せた。 「来てくれて感謝するよ。ゆっくり寛いでいくがいい」 「招待有り難く思っている。いつも気を遣わせて居るのが申し訳ない」 「いや、僕も君と親しくなりたかったから全く構わない。今、お茶を用意させる」  二人が話している間、片桐はこちらの方を見なかった。微笑もぎこちないのが分かる。声を掛けられる雰囲気でもなかったので敢えて冷静な顔を作っていた。女中が紅茶を運んで来た。それまでは、片桐と三條は四方山話をしていた。女中が姿を消すと三條は程よいところでこう言った。 「僕は、母上に用事が有ってね。呼んでいて済まないが席を外させて貰うよ」  自分の方へ顔を向けて力付けるような微笑を浮かべて出て行った。  その瞬間、片桐の笑みも消えた。身体も心なしか強張って見える。

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