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第41話(第二章)
掠れる声で質した。
「思わなかった。ただ、オレはお前に迷惑が掛かると、そう……思ったから……断った。しかし、本当は承諾したかった。……あれからずっと考え続けていて。もうお前とは話せなくなる、そう思うと……たまらない寂寥感《せきりょうかん》が込み上げて来て……。だから今日もしお前が屋敷に来たら正直な気持ちを言おうと……決意した。
訪ねて来なかったら……この想いは封印しようと、そう思って待っていた」
心の中を覗き込むような表情をしている。静かだが揺るぎの無い口調だった。淡い桜色の唇に絡みつく二本の指が艶かしい。衝動に駆られて訊ねてみた。
「接吻……しても良い……か?」
刹那、動揺したかのように瞳が大きく揺らぎ、唇が震えた。その唇が動いた。
「お前なら……構わない」
その返答を聞くや否や、身体が動いた。足早に彼に近付くと、ゆっくりと抱き締める。躊躇がちに抱き締め返された。制服越しに身体が密着する。吐息が触れる距離で見つめ合った。潤んだ瞳が閉じられた。待ち兼ねたように唇を重ねた。一瞬身体を強張らせたが、片桐は力を抜いて身体を委ねてくる。ただ、触れるだけの接吻だった。彼の顔を見て居たくてずっと目を開いていた。すると不意に彼が瞳を開き、唇を少し離して微笑んだ。
「意外と睫毛《まつげ》も長いのだな」
「そうか。自分では分からなかった。この部屋に使用人は来ないのか」
吐息が混じる距離でそう囁く。
「ああ、人払いをして有る」
片桐はそう言って背中に回していた右手を動かした。何をするのかと思っていると左指に指を絡める。そして、片桐は瞳を閉じて自分から唇を重ねてきた。唇と指での密着。堪らなくなって舌をそっと出し、彼の唇を撫でた。絡みついた片桐の指の力が強くなり、そっと唇が緩められた。
お互いに震える唇を重ね合い、静かに舌を絡ませた。甘く温かい口腔を貪る。左手は片桐の右の指にしっかりと絡ませ、右手は彼の背中を撫でる。制服越しでも肩甲骨の在り処は分かった。其処に触れた途端、彼の身体がひくりと跳ねた。お互いの身体の熱が分かった。鼓動が高い事も。
舌を夢中になって吸っていると、しっとりと濡れた片桐の指が強く自分の指を掴む。上を向けた片桐の顔が何か言いたそうだった。絡んだ舌を一旦解くと、彼の方から舌を絡ませた。そして、自分がしたのと同じように無心に吸ってきた。応じるように背中に回した手を肩甲骨の廻りを撫でる。わななく身体を抱き締めたくて、指を離した。未練を持っているような指を一瞬強く握る。そうしてから背中に両腕を回した。片桐の自分よりは華奢な身体を抱き締める。
おずおずと舌が動き、口腔内をさ迷っている。歯列を辿り、上顎に舌が触れた。その瞬間、言い様のない快感が湧き起こった。慌てて同じ事を彼にもする。お互いの身体の震えはますますひどくなった。そして、身体の熱も。血液が身体中を駆け巡っている事を自覚する。その血が熱い事も。
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