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第43話(第2章)

 わななく身体を抱き締めたくて、指を離した。未練を持っているような指を一瞬強く握る。そうしてから背中に両腕を回した。片桐の自分よりは華奢な身体を抱き締める。  おずおずと舌が動き、口腔内をさ迷っている。歯列を辿り、上顎に舌が触れた。その瞬間、言い様のない快感が湧き起こった。慌てて同じ事を彼にもする。お互いの身体の震えはますますひどくなった。そして、身体の熱も。血液が身体中を駆け巡っている事を自覚する。その血が熱い事も。   その熱を直接感じたい。そう切実に思った。そっと唇を離し、身体も少し離す。彼はじっとしていた。屈み込んで彼の胸の辺りに耳を当てた。片桐の両腕は自分の頭を抱えている。 「お前の心臓の音が聞こえる。制服越しではなくて、直接感じたい」  訴えるように言うと、片桐の鼓動が一層強くなった。確かめるように彼の顔を見上げると、濡れて赤みを増した唇が躊躇いながら動いた。目は閉じている。 「ああ、オレも…感じたかった」  瞳を開けた。涙で潤んだ瞳に魅入られた。下睫毛に一粒ダイアのような雫が有った。それをそっと唇で掬う。頭に回された手の力が強くなった。 「その扉の向こうが、寝室…だ」  見つめ合った瞳が外され、動いた。 「後悔は、しないか」  確かめるように言った。何よりも彼の意思を尊重したい。  揺るぎない瞳で、強く頷くと。片桐は少し身体を起こして、自分の左手を握った。  手を繋いだまま、寝室に向かう。些か覚束ない足取りだったが、彼の決意は伝わってきた。寝室に続く道が遠く感じた。  左手で扉を開けると、彼も中に入って来た。唇を重ねた。唾液のせいでさっきよりも濡れた感触が欲情をそそられる。少し震えながら制服の釦を外し始める。すると、彼も同じく自分の釦を外してくれた。やはり震えながら。  上半身を生まれたままの姿にして、革のベルトを外した。白い裸体が艶かしい。片桐の方は、指が震えているせいで、まだシャツの釦に取り掛かっていた。その指を引き寄せ、口付けた。羞恥のせいか頬が上気している。  その顔に微笑みを見せ、自分の着衣を解いた。  そして、寝台に優しく誘った。  糊の掛かった白いシィツが敷かれた寝台に上掛け羽毛布団を取り去って、片桐を横たわらせた。唇を貪欲に貪りながら上半身を密着させる。お互いの熱と心音の音を肌で直接感じると堪らなくなった。 ――もっと深くまで交わりたい――  おぼろげながら知識は、有る。しかし、彼の気持ちや負担を考えると無理強いも出来ない。  耳元に熱い吐息で囁いた。 「お前を、最後まで俺のものにして…いいか」

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