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第46話(第2章)

 そっと彼の内部に自分自身を沈める。しかし、思った以上に狭い。彼も痛みを感じているのだろう、身体が強張っていた。行為を止める事も一瞬考えた。すると、彼の両腕が腰骨辺りに回され、行為を促そうとする。顔が露わになった。眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情を浮かべている。吐息も止まっている。 「声を出せば、多分…少しは楽になるはずだ」 「…声、は…嫌…だ」  先程自分で出した声を覚えていたのだろう。片桐は行為自体を嫌がっているのではない。その事は彼の雄弁な両腕が物語っている。ただ、苦痛が耐えられないのだろう。愛しさが募る。 「では、名前を呼んでくれ」 「かと…う」  唇がわななく。少しは身体の力が抜けた。 「出来れば、下の名前がいいな」  きっとその方が彼も気が紛れるはずだ。 「あ…きひ…こ」  その言葉を口にした瞬間、強張りがほぐれた。  彼の熱を自分の一番、敏感な場所で感じる。微弱に蠕動する内部が快感をもたらす。全てを収めてしまいたかったが、片桐の苦痛を慮るとそれも出来ない。  しばらくはそのまま動かなかった。自身の半ばまでが片桐を感じていた。それでも充分な悦楽を感じていた。  彼は身体の全てが汗をはらんでいた。矢張り苦痛もあるようだ。瞳は閉じられ、眉間には皺を寄せている。  あやすように唇を重ねた。彼はその感触を楽しむように舌を出して、重ねられた唇の輪郭をなぞっている。しばらくそうしていると、目を開いた。苦痛のための涙だろう、頬に涙が伝う。それを唇で優しく掬う。  すると、今まで見た中で一番綺麗な微笑を浮かべた。  片桐は自分の腰骨に縋るように手を当てていた。その力が急に強くなった。 「あ…きひこ…もう…大丈夫…だか…ら」  そう囁いた。 「本当…だな」  確認すると、彼は腰から手を離し、自分の掌と重ねてくる。両手の指をお互いが絡ませた。指でもお互いが繋がっている。指の狭間を擦っていく感触も快感に繋がった。それは片桐も同じらしい。眉間の皺が消えた。 「大丈夫…だから…あきひこ」  名前を呼んだせいなのか、それとも彼の内部が異物の感触に馴染んだせいなのか、力が弛む。  ゆっくりと根元まで収めようとする。 「あ、あ、あきひこっ」  全てを挿入した時、満ち足りた声で呼ばれた。指が固く絡み合う。彼の中は暖かくて、そして絶妙な力加減で締め付けてくる。

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