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第57話(第2章)
三條は慎重な顔をして自分の顔を見た。
「ああ、その通りだ。承諾の返事は貰った」
「返事だけ……か」
全てを打ち明けても良かったが、事は片桐の名誉にも関わる問題だ。どう答えようかと些か躊躇していると、三條は腕を引っ張った。
「そっとあそこを見てみろ」
彼の視線を辿ると、自分達の教室の窓が有った。そして、その窓の向こうに片桐の顔が見えた。周りに級友は居ない。自分に慈しみに似た微笑を浮かべている。微笑み返すと、素早く辺りを見回し笑みを深くした。
「あんな片桐君の顔を見るのは初めてだ。もっと進展があったに違いない、だろ?」
「お前、それを確かめる為にこの場所を選んだのか」
親友の行動力に少し呆れたが、昨日片桐が言った言葉を思い出す。
(彼には恩を着てばかりだ)
「ああ、僕も関わったのだ。経緯を聞いても罰は当らないと思うが」
「そうだな。まず彼の妹君にお会いした」
そう言ってから、華子嬢の頼みを思い出す。
「妹君?どのような方だ。片桐の家で存知上げているのは片桐夫人くらいだから」
持ち前の無邪気さで訪ねてくる。
「そうだな…片桐に顔は似ている。片桐をもっと可憐にした感じの清楚な美人だ。性格は無邪気で思慮深い一面も持っていると思う」
「ほう、片桐君に似ているのか?それはさぞかし美人だろうな」
「その可憐な美人に会いたくないか」
悪戯っぽく誘った。
「会わせて呉れるのか」
「それはお前次第だ。この前、大掛かりな園遊会の事を話していただろう。俺も招待する積もりだと言っていた。あれに招待して欲しい。片桐と、妹君だけを」
「つまり、片桐伯爵夫妻は招待するなと言う事か。ならば、片桐君とは親密な関係に成れたのだな」
満面の笑みを浮かべて祝福してくれる親友に、感謝の笑みを返した。
「それで、園遊会の事は頼めるか」
「ああ、片桐伯爵はそれほど社交的な方ではないから、招待状を送らない。問題は夫人だな。今回は宮中からも何人かいらして下さる大掛かりな催しだから…要は、夫人に招待状を出さなければ良い。選りすぐった方だけを招待し、招待状の無い方は入れないという名目で」
「その様な事が出来るのか」
そう言うと、自慢気な顔をして三條は言った。
「招待状を出すのは母上だ。母上の弱みは握ってある」
弱みを握るという手段は好きではなかったが、背に腹は変えられない。
「片桐も、お前には感謝すると言っていた。英語を教える事くらいしか出来ないのが残念だと」
「お前の幾何に片桐君の英語か。僕の成績が向上するのは必至だな…それは有り難い。では早速母上に頼むとする」
三條は、思慮深い顔をして告げた。
「ただ、加藤家の人間は全員招待する事はもう決まって居る。片桐君がそれをどう思うか、だな」
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