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第73話(第3章)
片桐は唇に人差し指を当てたまま、頷いた。
その邪魔な手を除けて接吻した。次第に深く、片桐の呼吸まで自分のものにしたいと願いながら。自分の呼吸と片桐の呼吸の境界線が曖昧になっていく。舌と舌で想いの深さを表現するように絡めあった。嚥下出来なかった水分が片桐の顎へ流れた。それを舐め取っていると、片桐が紅く色づいた唇に指を絡めていた。
「もっと、接吻がしたい…か」
そう聞くと首を横に振った。先の行為を望んでいる様だ。しかし、この場所では寝台の中の様な勝手な体勢は取れない。後ろ向きにしか不可能だろう。しかも、前には鏡がある。羞恥心の強い彼には酷ではないかと思った。彼の嫌がる事はしたくない。
「その洗面台に手をつけるか」
試しに優しい口調で聞いてみた。数秒後、片桐はおずおずと言う通りにした。大丈夫らしい。彼も全くの初心者ではない。どう求められるか分かって居る筈だ。事こうなってしまえば自分だって止めることは不可能だ。僅かな理性が残っているうちに片桐の学生服を全て脱がした。こうすれば情交の痕跡は服には付かない。片桐も震える手でズボンと下着を脱がせてくれた。人が日常生活で使用している場所で全裸になった事はかなり恥ずかしいのだろう。揺れる瞳が艶かしい。そして、彼の心臓の音と同調するように紅く色づいた突起が微弱に揺れる。誘っているようにも見えて、舐めてみた。片桐は満足そうで艶やかな吐息を漏らし、凝って宝石のようになっている場所に誘い込むようにうなじを掴み力を強めてくる。空いている右手でもう一方も丹念にだが、力強く愛撫した。片桐の背中が弓なりに反った。下肢に密着した二人の物がお互いの熱の高さと容量を伝えてくる。
先に解放してやる方が片桐にも良い筈だと、片桐の熱い物を上下に扱く。片桐は細い髪を振る。その度ごとに汗もキラキラと空気に舞う。ここまで感じてくれているのだと思うと理性が蒸発した。彼の物を口腔に含んだ。全てを含んだ時、彼の絶頂が唐突に訪れた。声も漏らさず彼は逝った。
迷わず彼の出した物を嚥下した。粘液質だが、彼のものだと思うとすんなり飲み込めた。
片桐は脱力し、洗面台に寄りかかっている。その顔は壮絶な艶をはらんでいた。息が整うのを待って、先程の姿勢に導いた。素直に向きを変えた。
「脚を開いて欲しい」
耳元で囁くと、その通りにしてくれた。
彼の秘められた場所は蕾のように固く締まっていた。そこに舌を這わせると、一瞬身体が強張ったがすぐに力を抜いてくれた。舌で内部をぐるりと回すと一層力が抜けた。指を一本ずつそっと内部に入れた。きつい筈なのに、従順に受け止めてくれる。内部も熱かった。そして敏感な壁が微弱に震え、侵入者を歓迎しているようだった。指よりももっと確かなものでこの神聖な場所と繋がりたい。祈りにも似た渇仰だった。
しかし、濡らすものが無いことに気付く。このままでは彼を傷つけてしまう。躊躇しているのを感じたのか、片桐が艶めいた声で誘った。
「晃彦、このままでいい…から」
「大丈夫なのか」
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