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第74話(第3章)
「ああ、オレは平気だ。だから…」
そう言って洗面台を握り締めた。その言葉を呼び水に、そっと自分を中に入れた。最初の部分が通る時は少し身体は強張ったが、抵抗なく彼の魂に近い場所へと導かれた。熱くて狭い彼の場所。自分以外は許されていない場所のより奥へ。途中で、彼の最も弱い場所を何度か突いた。突いた瞬間、彼自信も昂ぶり、鏡に映った紅潮した顔に涙が零れた。彼は慌てて顔を隠すかと思いきや、上がった掌で自分の人差し指と中指を噛んだ。声が出るのを防いだらしい。
「この様な事をしたら、お前が怪我をする」
そう言って、指を外し、自分の指と入れ替えた。
薔薇色に染まった顔に、涙を零している様子は雨に濡れたピンクの薔薇のようだと思った瞬間、情動のままに動いた。深く、浅く、そして角度を変え彼を思い通りに揺さぶった。指では届かない深い場所にも彼の感じる場所がある様で、そこを突かれた時には彼の身体がしなやかに反った。口は閉じられているので、彼の様子を確認しようと鏡を見た。
彼の性格からすると、目を瞑って自分の蹂躙を受け止めていると勝手に思っていたが、彼は大きな目を開け、自分の顔や、後ろに映る彼の征服者の顔を恥ずかしそうではあったが、見詰めていた。何も見逃さないような真剣そうな眼差しで。その濡れた瞳が印象的で一瞬動きを止めた。すると、彼の方から腰を突き出してきた。その動作に煽られ、彼が一番感じる浅い場所を念入りに突くだけではなく腰を回すと、洗面台に突いていた手が外れ、タイル張りの洗面台に胸をぶつけかけた。反射的に胸を庇い、ゆっくりと洗面台に彼を凭せ掛けた。が、その場所は彼の弱点の一つである胸の尖りだった。自分が動く度に、そこも白いタイルで擦られ、紅色が濃くなっていく。彼は限界らしく、身体の撓りの回数が増えて行く。
「あ、あきっひこ。もっ」
指で押さえているので、しかとは分からないがこの様な事を訴えている。
「ああ、俺ももう駄目だ」
身体中から汗が出ているのを感じる。彼の内部がとても良くてこれ以上は持ちそうにない。
片桐は、指を外して言った。
「一緒にっ…」
「ああ、一緒に逝こう」
彼の嬌声は誰にも聞かせたくない。掌で彼の唇を塞ぐ。
深く奥を抉ると、彼の内部はこれまで以上に痙攣した。それに誘われて自分も思いの丈を片桐の奥深くに放った。その感触に誘われたのだろうか。片桐も声を漏らさず達した。
力の抜けた、若木の様な身体を後ろから抱き留め、うなじに強く口付ける。繋がった部分を名残惜しげに解く。身体を反転させて正面から抱き合おうとすると、彼は弱い力で抗った。どうしたのだろうかと思っていたら、密着した下半身を遠ざけようとしている。自分の下半身の様子を気にしているらしい。このまま密着すれば彼の体液が自分の制服に付いてしまうのが気になるらしい。
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