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第75話(第3章)
汗ばんだ髪を手で梳いて優しく接吻すると身体を離し濡らしたタオルを手にして、彼の放ったものを拭った。自分の痕跡を消すようにタオルを動かすと身じろぎする。羞恥心の故かと思ったが次の言葉で目を見開いた。
「晃彦、そこはいい。その熱情の証はずっと覚えておきたい。身体にも、心にも」
そう言って立ち上がった、幾分脚は震えていたが。夕方の光と蝋燭の光に彼の全裸が余す所無く晒される。美術館に展示されている西洋彫刻よりも扇情的で美しかった。声が掠れる。
「もう一度、いいか」
「…ああ、何度でも、いい」
艶めいた声にも煽られ自分も制服を全て脱いだ。洗面所を使う人が居たら、ノックで分かるのでその時は個室に入れば良いと開き直った。
再び洗面台に手を付かせる。二度目の挿入は自分の放ったもので潤っている。思いの他簡単だった。彼は手を取り、自分の唇を塞ぐように促した。嬌声が漏れるのを恥ずかしがってのことだろうが、鏡に映った自分の顔と晃彦の顔はずっと見詰めていた。涙の膜越しだったが。自分を魅了して止まない瞳に快感も宿していたが、もっと違う何かも秘めていた。一挙一動足を覚えようとするような真摯な瞳だった。
彼の前に手を触れようとすると、そっと手が伸びてきて遮った。両手を彼の胸元に導く。石榴の実のような彼の尖りを手で優しく愛撫しようとすると、身体が反り返り胸への愛撫を強くするように導かれた。必死で声を殺しているのが分かる。いっそう身体が仰け反ると、ルビーのように硬くなった尖りから手を離し、唇を掌で塞いだ。そして、彼の内部のひときわ感じる場所を強く突いた。掌で覆っていた彼の口が開き、唇が掌の肉を食んだのと同時に、彼の全身が一瞬突っ張り、力が抜けた。その機会を逃さず、自分が届く限りの奥を蹂躙する。鏡に映る彼も自分も汗を纏っている。そう気付いた時、解放がやって来た。自分の熱い体液を彼の中に注ぎ込む。彼の身体が魚のように跳ねた。抱き締めてから首を後ろに誘い、熱い口付けを交わした。
お互いの肌は汗の玉が浮かんでいる。どちらともなく微笑むと、濡らしたタオルでまず、彼の身体を拭った。すると、彼も同じように拭いてくれる。
ざっと身支度をすると、手を繋いで御手洗いから出た。長い時間が経った様な気もするし、短かった様な気がする。まだ力の入らない様子の彼を礼拝堂に連れて行き、最後尾の椅子に腰掛けさせた。そして首に手を回し自分の肩に凭れるように誘った。片桐は逆らう事なく肩に顔を預けた。礼拝堂には賛美歌が流れていた。自分は異教徒だが、ここに彼が居るだけで充分満たされていると心の底から思った。
この時間がずっと続けばいいと祈るように思う。
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