77 / 221
第78話(第3章)
「いや、問題が問題だけに話して居ない。華子は『晃彦様とは随分親密でいらっしゃるわね』と言っていたが、どういう関係かまでは想像出来ない筈だ。そんなに大人びた娘でもないからな」
「そうか……それはいささか残念だ。華子嬢には祝福されたい」
冗談めいた口調で言うと、片桐は唇を弛めて言った。
「絢子様が祝福なさって下さった。あれで充分だ」
彼も園遊会で絢子様が加藤家の両親と引き離して下さった事を察しているのだなと思った。
夕闇が辺りに漂って来た。名残りは尽きないが帰宅しなければならない時刻となったようだ。
「明日もここで逢えるか」
「ああ、逢おう」
約束して家路に着いた。電灯の明かりが途絶えて居る所に来ると、手を繋ぎ唇を触れ合うだけの接吻をした。
翌朝、登校して見ると、片桐はいつもの様に静かに自席に座っていた。こちらに視線を流したが、すっと逸らされた。三條がいつもの明るい様子で挨拶をしてくるが、瞳は案外真剣だ。
「此処では話が出来ない。いつぞやの中庭に行こう」
いつぞやの、と言うからには自分の教室の窓が見える所だろう。もしかしたら校舎の窓から片桐が見てくれるのではないかと期待しながら従った。
新緑の木漏れ日が降り注ぐ中会話をする。
「昨日、片桐君と逢ったのだな」
「ああ、逢った」
情交の際の彼を思い出しながら言った。
「それで、華子嬢の事は聞けたか」
声を低くして聞いてきた。
「ああ、婚約者も好きな人も居ないそうだ」
いつもの快活な表情に戻って三條だった・
「そうか、では僕が求婚しても構わないな」
不敵に笑う。
「正式に求婚する積もりか」
「その通りだ。相手が平民ならともかく同じ階級の令嬢だ。爵位も釣り合いは取れている。善は急げだ。早速うちの執事に命じよう」
「御両親には相談しなくても良いのか」
其の点だけが気になった。華子嬢は良い令嬢だ。いつか、片桐の屋敷に行った時、全てを知りながら細心の注意を払ってもてなしてくれた。あの機転からすると頭も良いのだろう。三條も良い男だし、お似合いだと思う。
「ああ、我が家では押しが強い方が尊重されるのだ。千年もの家系だから権謀術数に長けて居る者も多数いらしたようだ。
僕もそちらの方面では父に負けない。だから家で僕に逆らう者は居ない。早くしないと恋敵が出現しそうだ。何しろ片桐君と良く似た美貌だ。あれでは社交界は騒ぐだろう」
自信に満ちた顔で断言する。
ともだちにシェアしよう!