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第82話(第3章)

 露見への恐怖なのか、それとももっと別の理由でも有るのか…。そう考えると焦燥感で胸が焼ける思いがした。 「祝福される関係…か」  ぽつんと殆ど聞き取れない位の声で片桐が呟いた。  彼は祝福される関係を望んでいるのだろうか…。それを聞く前に目当ての場所に辿り着く。  後ろ手で鍵を閉める。改めて彼の真意を尋ねるべく口を開いたが、その口は唇で塞がれた。彼の両腕が背中に回される。ひとしきり唇を重ねた後、ドア一枚で隔たった場所への遠慮が働いた。とは言え、個室に入ってもそれ程の違いは無かったが、少し位の気休めには成るだろう。手を繋いで個室へと導こうとした。  しかし、片桐はその場を動かない。声には出さないが、唇の形で伝えた。 「ここで…」と。  それ程時間は掛けられない。  片桐の瞳が欲情のみを孕ませるのを見たくて、そして彼が不安に感じている事全てを忘れさせる為には肌で直接会話するしか方法が考えられなかった。言葉よりも雄弁に真実を伝えたい。  そして片桐の内部で、彼の熱さを感じたい。多分、それが一番手っ取り早い心の交流だと思った。何よりも自分が彼に欲情している。  学生服の釦を外して行く。すると彼も震える華奢な指で同じようにしてくれた。学生服を脱がすと木張りの床に落とす。ぱさりという音が大きく聞こえた。シャツの前を開き、首筋から鎖骨にかけて唇を辿らせる。  片桐は背中に手を回し、力を込めた。  時々、しなやかな魚の様に身体を跳ねさせる場所が有ると、そこを念入りに唇で吸い上げた。鬱血の痕が白い肌に散っていく。焦らすように彼が感じる胸の尖りを外して唇を這わして行くと背中に回った手が髪を掴んで目的の場所に誘導しようとする。  誘う様に紅く尖った場所に唇を寄せてそっと息を吹きかけると、身体の震えが一層激しくなった。左手でもう一つの尖りを愛撫する。震える手が髪をかき回し、感じている事を知らしめす。吐息が艶かしいものに変わって行く。  幾分細めの身体を反転させ、洗面台に手を付かせた。震える手で洗面台を握り締めて居る彼の指先に唇を寄せた。尽きない欲情のままに。  彼のベルトを外し、下着ごと着衣を完全では無いが脱がした。彼自身を握り締めると、眉間にしわを寄せていたが、彼の瞳は欲情しか湛えていなかった。その姿が鏡に映っている。  白い壁と木目の柱、そして鏡だけが二人の姿を見ていた。

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