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第97話(第4章)
(そうか、三日後、宮城で晩餐会が有ったな。父上母上を始め、上級の使用人は皆お供をするはずだ。屋敷に残って居るのは、下働きの女中達だけだ)
この機会に片桐を自分の部屋に呼ぶ事は出来ないだろうか…・
もちろん、晩餐会に出席するのは父母だけだが、使用人は使用人で「畏れ多くも宮城に参上を許された」と思い、(晩餐会のメニュゥとは違うものだが、食事を振舞われる)上級使用人程、主人夫妻に付いて行きたがるものだ。宮城の二重橋から向こうに入る事の出来る人間はそうそう居ない。皆が名誉に思うので、使用人はこの機を狙っているだろう。
昼休みの鐘が鳴った。ノックの音がしたので静かに彼の傍を離れて扉を開ける。三條が様子を見に来てくれたらしい。
「片桐君の具合はどうだ」
「ああ、睡眠不足と過労のようだな。しかし、今日は医師が居ないのは何故だ」
「僕も気になって教官室に寄って聞いてみたら、今日は欠勤だそうだ。だからお前が看病するという事で担任には話しをつけておいた。お前、昼御飯はどうするのだ」
「彼が起きてから、どこかで食べようと思う」
「寝ているのか」
「ああ、熟睡中だ」
「そうか……ならば、滋養満点の料理でも食べに行けよ。これは貸しだ。いつか返せよ」
そう言って革の財布を取り出し、かなりの額の紙幣を渡してくれた。
「いいのか。しかし、これだけの金額を良く持ち歩けるな」
「僕の親友のくせに把握していないな……。御祖父様や御祖母様が潤沢な小遣いを呉れるのでいつもこれ位の金額は持ち歩いているぞ。もちろん、自室にはもっと沢山の紙幣を隠してあるから遠慮無く使えよ。返せる時に返して呉れれば良い」
扉の外で小声の会話をしていた。
「感謝する」
「いや、それには及ばないが、華子嬢の件は片桐君に良く言って貰えれば有り難い」
条件を出す事で気を軽くする配慮が感じられた。
「分かった。それは伝える。彼の体調が良ければ、お前の事も売り込んでおくから」
「ああ、お大事にと伝えてくれ。どうせ、今日は授業に出る気は無いのだろう」
「多分……な」
「では、お前達の鞄は後で持って来よう」
そう言って、三條は立ち去った。紙幣を自分の財布に仕舞い、音を立てずに彼の傍に近寄った。
片桐は無防備な寝顔を見せている。
目を閉じれば印象もかなり変わるものだなと改めて思った。彼の大きな瞳が印象的なので、そちらばかり気を取られて居たが目を閉じると優しげな雰囲気に変わる。
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